第12話 「学校祭」 その3


「くっそ、あいつっ——!」


「まてまて、一回放せ、ちょっ——いたい!」


 前沢は完全にイラついていた。


 なんか流れで屋上まで連れてこられてしまったがあっちは大丈夫だろうか。


 宿題のことで瀕死な四葉に彼女を任せるのは少し心苦しいが僕はひとまず、ここで事情を聞かねばならない。


「はぁ、まったく。どこまで連れてきてんだ」


「え、あ……すまねぇ」


 あまりの激怒に周りを見失っていたのか、自分が屋上に来ていることにすら気付かなかったらしい。


「——いや、そんなことなんてどうでもいいんだよ!」


「おい、どうでもよくない、俺ご飯の途中——」


「俺も途中だ、問題ない」


「——はぁ」


「なんだよ?」


「いや、なんでも」


「じゃあいいや……それで、どうだと思う?」


 僕のため息を軽くかわし、こちらに近づいて急に問う前沢。


 まったくもって心外だが今回の件に関しては僕も否定することはできないため、耳を傾けることにした。


「んで——どうって?」


「どうっては、どうなのかってことだよっ、あいつ」


「なに、西島さんの事か?」


「そうだよ——ったく、あいつ何考えてるんだ?」


 そしてもう一度、僕は溜息を洩らした。


「なに、どうした?」


「いやな、たしかにな、西島はおかしなやつかもしれないけど、少しは信じてやれよって思ったんだよ」


「——そう思いたいのもやまやまだが、俺は猛何回も見てきてるんだよ。あいつはこういうことを平気でするやつなんだよ」


「そうか? 僕にはあの言葉は本心だと思うぞ」


 すると、彼は俯いた。


 それは知っている——と言わんばかりの表情で地面を見つめている。


「そうならいいんだけどな……」


「ああ、ちょっとはしんj——」


「だが、それはできない」


 しかし、彼は悟ったように否定した。


「できないってお前——」


「まあ信じてはいるけど、絶対裏はあるだろうしな、ちょっと肝に命じながら観察するよ」


 その目には少し混乱しているのが見えたが、それを指摘しようとしたとき。後ろから例のあの人の声が聞こえる。


「あ~~ここにいた~~、誠也どこ行くのよ~~!」


 にっこりと笑った彼女。

 確かにこの笑顔を見れば疑うのも無理はないのかもしれない。


「お、おい、西島何の用だ?」


「何の用だってひどいわね、別に……告白の答え聞いてないし……」


「ああ、それだったら——」


「ああ!? ってことはいいのっ?? ほんとにっ⁉ やったー、私付き合えたよ誠也とっ‼‼」


 自信満々に言う西島咲、その表情を見ればただの女の子だったが隣にいる前沢は警戒の目を緩めることはなかった。


「だからっ、違うって、それは無理ってことだよ!」


「無理~~⁇ どうしてなの~~?」


 ポカンと疑問を浮かべる西島を前にして、彼は歯ぎしりをする。


「無理は無理だ、それにこんなことをして俺に何の用なんだ?」


 前沢が慎重な面持ちで訊くと、彼女は溜息をしてめんどくさそうに言った。


「——はぁ……、何の用だって? そんなこと考えていないわよ、だいたい、私はもう改心したでしょ? それに、あんたと付き合えば他の人を気にする必要だって思わない? この気持ちは本気よ、誠也の事は本気で好きなんだよ?」


「……でも、無理だ」


 しかし、彼は否定した。


 嘘でも本当でも、それはできないと言わんばかりに喉を鳴らして彼は言い放った。


「俺にも好きな人はいる。だから、お前と付き合うことはできない」


「……ふぅん…………」


 すると、彼女は無言で教室へ戻っていった。


 その後姿を二人で見つめ、僕は思った。


 返事をした彼女が見せた瞳は少しだけ輝いていて、何かおかしなものがくっついているような気がしてしまった。

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