第四章 本当の家族

第12話 「学校祭」 その1


 7月3日。


 あれから数週間が経った。


 最初は顔を出しづらかった文芸部も今ではほぼ毎回行っている。


 まあ勿論、四葉が来てほしいと言っているから顔を出しているにすぎない……と言いたいところだが楽しいのも事実。


 あの一件があったのに意外にもみんなの僕に対する当たりが優しくて、心の中でホッとしてしまっている。


 部長も椎奈も、そして先輩方も明るく受け入れてくれた。


 彼女たちは凄く優しいイイ人なのではないかと錯覚し、何か試されてるんじゃないか? とも疑うように思ってしまったがそんなことも一切ないくらいに変人でいつも迷惑を浴びさせているのは僕であり、頭を使って試すようなことをすることもない——そして、そんなこんなで今に至るのだ。


 ——しかし、環境に甘える僕ではない。


 椎奈にはかなりの迷惑をかけたのは事実であるため、いろいろとお詫びをしようとしているのだが彼女はそれを全く受け入れてくれない。


 悪いことをしたのではないかと考えたがそんな心当たりもないし、まあ、深く考えずとも、きっと彼女は遠慮しているのだろう。


 いや——というか、なぜだか分からないが、より一層押しが強くなった気がする。


 昨日なんて、四葉と帰っている間に無理やり割り込んできたし、それに少しだけ性格も変わった気がするし……最近、身の回りで起きていることにはすごく疑問を覚えてしまう。


「四葉、今日の課題しっかり終わったか?」


 そんな違和感を胸のうちに抱いて、箸すらまともに持てていないよだれが垂れそうになった四葉に訊いた。


「ん……やっふぇ、ない……」


「まじか……林先生だぞ、あれ」


 ウトウトし続ける四葉に心配の目を向けるが、瞼が閉じかけている彼女にはきっと伝わっていない。


「だ、いじょうふはよぉ~~」


 というか、最近こいつも変わった気がする。


 どことなく甘えてくるというか、少し前までは気を張ってキャミソールの様な薄着なんて僕には見せなかったのに今では当たり前のように見せてくる。


 僕としても、今更それを見たところで何かあるわけではないけれど、目のやり場にも困るし、そんな恰好をする四葉に少しなりとも心配してしまって、どう伝えればいいのかも分からないのだ。


「ほんとかよ……四葉、林先生に怒られてみろ、死ぬぞまじで」


 これで起きるだろうと思い、脅してみた。


「こわふなーーいぃぃ!」


 不発だった。

 どうやら本気で寝ぼけているのかもしれない。



 ————20分後。


「ゆ、ゆずぅと‼‼」


「ど、どうした……?」


 僕が自室で今日中の宿題のチェックをしていると急に四葉がドアを開ける。


 そこには淡い紺色のブレザーを着て、身支度が整っている彼女が立っていた。


 焦げ茶色の髪は綺麗にかされ、お陰で麗しく輝く光沢が僕の目を照らす。


 だが同時に、瞳には涙が浮かんでいた。


「っおい、泣いt——何があったっ⁉」


 その涙に動揺して僕は叫んだ。


 すこし怯んでビクッとした四葉を見て正気に戻ったがその涙は止まらない。


「何が、どうした四葉、言ってみろ?」


 恐る恐る口を開ける四葉。


 桃色のリップが塗られた唇を少しずつ開けながら、震えた声で彼女は答えた。


「————そ、その、宿題」


「宿題?」


「しゅ、しゅしゅ、宿題っ終わってないよっ‼‼‼‼」


「——っ」


 まあ、その——だ。


 ——こんな風に、忙しい僕たちの朝が始まったのである。



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