第11話 「我が純愛の妹を前に」 その2


 その日の帰りはとにかく気まずかった。

 

 僕をからかう先輩方やとにかく褒め散らかす由愛、にやりと笑みを浮かべてこちらを見つめる部長……そして俯いた四葉。


 ——知っている。

 僕は知っているんだ、彼女が僕のことを好きだということを。


 なのに裏切ってしまった……そんな罪悪感が切っても切ってもなくならない空気のように僕に絡みついていた。部長に連れられて帰った四葉がどうしても切っても話せないほどに寂しそうに見えてしまって。


 ——何か、僕の胸にでも穴が開いたみたいだった。



「ねえ、柚人……くん」


「——」


「ん~~どうしたの?」


「——え、あ、あぁ……何でもないよ」


「柚人くんって、その私のこと好きなのかな……」


「ま、まあね——あとなんで『くん』呼び?」


「え、えっとぉーーなんとなく?」


 柔らかい笑みを浮かべてこちらを覗く椎奈を見て、僕は目を逸らした。


「変だな……それ」


「そう?」


「ああ、変だと思うぞ、急になぁ……」


「まあ、でもさ、あったとき思い出さない?」


「あったとき?」


「そう、私たちがあった図書館でのあの日……」


「う~~ん、そうか、会ったとき……かぁ」


 そう呟いて僕は黙り込んだ。


 彼女と出会ってからもうすでに一か月が立っていた。短いようで意外と長い時間を振り返ってみて、僕は彼女と付き合うことになった。それに口に出たということは僕も嫌いじゃなかったんだ。むしろ、逆で好きなくらいに思っていたのかもしれない。


「うぅん、なんかさ」


「ん?」


「あっという間だったなぁって……」


「確かになぁ、最初の椎奈なんて無口で困ったよ、まったく」


「えへへ……どうしても話せなくてね、なんか本読むのが好きすぎて君の事なんか見えてなかった」


「ひどいなぁ」


「あ、でも、最後に焦ってありがとうって言おうとしたのにすぐどっか行ったじゃない? あれはさすがにどうしようもなくて私だって困ったんだよ?」


「それはな、いろいろと急いでたし——大体仕事をしない椎奈の方が悪い」


「っげ~~、そうやって図星なことばっかり……」


「事実だし……」


「まあね~~」


 にやにやと笑う彼女の隣で何とも言えない感情を抱えた僕。


 この感情はいけないものなのだろうか?


 別に嫌いじゃない……ましては好きかもしれない。


 椎奈のことはこの一か月で好きになることもできた。お淑やかに見えて大胆な性格だって、たまに見せる微笑みだって、綺麗に滴る暗黒色の髪の毛だって、薄桃色のみずみずしい唇だって……彼女の魅力的なところはいくつだってあるし、好意だって持っている。


「すきだなぁ~~」


 ——だけど、でも。


 僕は本当に彼女のことをなのだろうか?


 本当の意味で、性別を超えたなのだろうか?


 彼女にふとしたを抱けるのだろうか?


「あ、ああ……」


 でも、そんなことを考えれば考えるほど、僕は罪悪感に苛まれていた。


 しかし。


 しかし。


 しかし。


 ——それは唐突に訪れた。


「ねえ……うそでしょ?」


「——え」


 しかし、そんな最中だった。

 僕の隣で伸びをしながら、にやけた椎奈はそう言った。


「——だからぁ、嘘なんだよねって言ってるの」


「え……?」


 驚く間もなく、彼女がそれを言おうとした瞬間。

 

 ————ブルルルル――——ブルルルル。


 ポケットからスマホの着信音が鳴った。


「出ていいよ」


 ブレもない、真顔の一言を噛み締めて僕は電話に出た。






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