第160話:奇妙な音が聞こえてきたんだが

 ◇



 一波乱あったお風呂を終え、俺はコーヒー牛乳を飲んでいた。


「おいしい〜!」


「ぷは〜」


 俺の隣で一緒に飲んでいるスイとアースも美味しさがわかっているようだ。


 入浴後は思っている以上に水分が失われている。細胞の一つ一つに染み込むジュースを味わいながら、四人が脱衣所から出てくるのを待っている。


 一応王都を出る際に寝巻き(パジャマ)も持ってきていたのだが、せっかく宿が浴衣を用意してくれているので、そちらに着替えている。


 なかなか風情があり、なんとなく前世の日本を思い出す。


 浴衣……休日……ブラック企業……クビ……うっ、頭が……。


 連想ゲームのごとく余計なことまで思い出してしまったので、一旦忘れることとしよう……。


 それから約五分後。


「お待たせしました〜!」


 着替えを終えたアレリア、アイナ、ミーシャ、アリスの四人が出てきた。


 そういえば、浴衣を着た姿を見たのは初めてだったな。みんなよく似合っている。


「じゃあ、部屋に戻るか」


 食事と風呂を終えたので、あとは寝るだけ。


 出発は昼くらいからなので、今夜はゆっくりできそうだ。久しぶりのお泊まりだからと四人が騒がなければ……だが。


「枕投げのルールってもう決めてたっけ?」


 部屋に戻る途中、思い出したように呟くアイナ。


「まだですね。う〜ん、五人なのでユーキは助っ人枠とか?」


「それがいいね。ユーキがいると不公平だし」


「アリス、他のルールは普通のでいいと思う」


 枕投げをするかどうかではなく、する前提らしい。


 こりゃ今夜はゆっくり寝られそうにない。


 トホホ……と思っていた時だった——


 ドオオオオオンンンンッ!!


 地響きとともに、外から大きな音が聞こえてきた。建物のすぐ近くという距離感ではなさそうだが、かなりの衝撃があったのは確実。


「……何の音?」


 アイナが不快そうな顔をしている。


「わからないが……何か爆発したみたいだな」


「ううん。それもそうだけど……魔物じゃないんだけど、魔物みたいな……変な唸り声……」


「唸り声?」


 改めて耳を澄ましてみるが、よくわからない。


 アイナはエルフなので人間に比べて聴覚に優れている。俺では聞き分けられないほどの僅かな声を聞き取れているのかもしれない。


「とりあえず外に出てみよう。何があったのかわからないんじゃ、ゆっくりもできないしな」


 唸り声も無視できないが、耳を擘く衝撃が気になる。外に出れば、ついでに唸り声の正体もわかるかもしれない。


 俺たちは一旦宿を出て、様子を見にいくことにしたのだった。

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