第106話:ゲームセンターがあるらしいんだが②
◇
「あ、あれは……マツサキ・ユーキ……!」
ユーキたちが遊戯場に向かう途中、身長百八十センチの大柄な体躯の男が建物の陰に隠れるようにユーキたちを覗き、呟いた。
その手には、精緻なデザインが施された盾を持っている。
「許さねえ……許さねえ……許さねえ! ……あいつだけは許さねえっ!」
カタンは王都を追放されたことを根に持っていた。
これまでは勇者として破格の待遇を受け、王国民からは称賛され、何の不自由もなく過ごしてきただけに、追放されてからの落差に驚愕した。
これまでのような勇者の見られ方ではなく、ただ単に兵器として見られている。
戦争の抑止力のための駒。
それ以外の何物でもないことが、言われずとも伝わってくるのだ。
カタンもまた、ユーキとは違う異世界から召喚された。
そこでは平凡な村人だったが、異世界の勇者になってからというもの、急に大きな力と大きな富、そして名声を手に入れてしまった。
調子に乗り、プライドだけは大きくなってしまった驕り。
それが今、カタンを苦しめている。
ユーキへの恨みから、自然と強く拳を握りしめてしまう。
爪が食い込み、自身の手の平を傷付けてしまうほどに——
この男の名は、カタン・アクジール。
オズワルド王国にて国王とともに断罪され、各国に散り散りなった勇者パーティの元メンバーの一人。
「連れていたのは第二皇女と第三皇女か……今に見てやがれよ……」
不適な笑みを浮かべ、カタンは燃え上がる感情を抑える。
そして、ユーキたちに関する情報を集め始めた。
◇
遊戯場は、商業地区を通って少し先の冒険者ギルドの近くにあった。
建物は新しいことが窺えるが、全体的に落ち着いたトーンに纏まっており、日本のゲームセンターのような派手さはなかった。
辺鄙な場所ではあるものの、冒険者を中心に出入りが激しい。
かなり賑わっているようだ。
扉を開け、中に入る
遊戯場の中は大型の魔道具が何台も置かれていた。
ピコピコと電子音が聞こえ、何となく懐かしく思えてくる。
なるほど、本当にゲームセンターだ。
しかし現代日本のようなUFOキャッチャーだったりリズムゲームが置いてあるというわけではなく、もっとレトロな感じのものだった。
テトリス、インベーダーゲーム、格闘ゲームなど。どれもドット絵なので、現代人がイメージするようなグラフィカルでリッチなゲームではない。
遊戯場というよりは、ゲーム喫茶という言葉が似合いそうな場所だった。
「あー、久しぶりに来ました! やっぱりこの雰囲気良いですね!」
アレリアが楽しそうにはしゃいでいる。
「な、なんかすごい場所に来ちゃったわ……」
それに対して、アイナは初めて見るゲームに困惑しているご様子。
「う、うるさい……」
「右に同じなんだナー……」
竜二匹は、音が苦手らしかった。
人間よりも聴覚が敏感なのかもしれない。
俺は異世界に来てからよく音が聞こえるようになったのだが、集中して聞こうとしなければ感覚的には変わらないので、それほど気にならない。
「キツそうなら外で待ってるか?」
「が、我慢するー……」
と言われても、こんな様子で長く付き合わせるわけにもいかないよな。
俺は、こんなこともあろうかとアイテムスロットに忍ばせていた耳栓を取り出した。
「これ、使うか?」
「なあにこれー」
「耳栓って言うんだ。耳に詰めると音を遮断できる。ま、完璧に聞こえなくはならないと思うが、役には立つんじゃないか?」
そう言って、スイとアースの耳に詰める。
「す、すごい〜!」
「全然聞こえないんだナー!」
どうやら、これで解決できたらしい。
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