第105話:ゲームセンターがあるらしいんだが①
◇
朝九時。
ユリウスさんの朝練に付き合った後、朝食を御馳走してもらい、帝城を出た。
今日は、アレリアに帝都の案内をしてもらうことになっている。
魔法書のことはともかく、何か仕事で来ているというわけではないので、本当に観光気分である。
いや、気分というか普通に観光だな……。
俺がいるから護衛はいらないということで、今日は俺、アレリア、アイナ、スイ、アースといつものメンバー……だけじゃなく、なぜかアレリアの姉——ミーシャもついてきている。
まあ、久しぶりに妹が帰ってきて、しばらくすればまた離れると言っているのだから、できるだけ長く一緒にいたいと思うのは自然な心理か。
「アレリア、行き先はもう決めてるの?」
「まずは商業区域で買い物して、美味しいもの食べて……それから……う〜ん?」
「つまりノープランというわけね……?」
「こういうのは臨機応変って言うみたいです!」
ミーシャは呆れたように肩を竦めた。
俺とアイナもやれやれである。
「美味しいものは後で食べに行くとして、商業地区なんて王都も似たようなものよ。どこの国でも似通ったものを扱っているもの」
確かにそんなものかもしれないな。
前世でも出張だったり旅行だったりで地方都市に行くことがそれなりにあったが、どこに行ってもそれほど都心部というのは景色は変わらない。
前王政時代だって鎖国していたわけではないので、輸入品も入ってきている。
「帝都ならではといえば、遊技場じゃないかしら」
「あ、それがありましたね!」
「普通真っ先にそれが出てくるからね?」
「えへへ〜」
二人で盛り上がっているところ悪いのだが、さっぱりわからない。
言葉の響き的に遊べそうなところのようだが……。
「遊戯場って……?」
俺の疑問を、アイナが代弁してくれた。
「遊戯場というのはですね、たくさんゲームが置いてあるお店です!」
「げーむ?」
アイナはゲームすらも理解できなかったようだが、俺には理解できる。
まさか、このまさにゲームみたいな世界でもこの言葉を聞くことになるとはな……。
「アイナ、ゲームというのは魔道具を利用した玩具(おもちゃ)のことだと思ってくれればいいわ」
すかさずミーシャの説明が入った。
少なくとも王都ではそんなものはなかったし、二人の話を聞く限りでは帝都ならではのものと思って間違いなさそうだ。
帝国全体に広まる頃には別の国の首都でも噂くらいは広がるようになっているだろうし、本当に帝都だけで知られているものなのだろう。
「遊戯場っていうのは、最近出てきたものなのか?」
「そうね。『ゲーム』自体が本当に最近出てきたものだし……。まあ、ちょっと風当たりが強い場所ではあるから、注意が必要だけど」
「風当たりが強い? どんな風にだ?」
「年寄りが言いがちなのよ。『ゲームをすると頭が悪くなる』だとか、『ゲームをすると怒りっぽくなる』とかね」
「ちなみにそれは本当なのか?」
「嘘っぱち……とも断言はできないけど、少なくとも根拠はないことよ。若者文化だからって、バカにしてるだけだと思うわ」
「なるほど」
どこの世界でも同じ歴史を繰り返すようだ。
新しいものを理解できない、あるいは受け入れられないのなら放っておけばいいだけなのだが、稀にミーシャの話に出てきた年寄りのように攻撃をする者がで出てくる。
「ユーキ、大丈夫かしら……?」
アイナが不安気に俺を見ていた。
なるほど、今の話を聞いて少し怖くなったと見える。
「俺は興味あるよ。せっかくだし行ってみたい。アイナは不安なのか?」
「そういうわけじゃないけど……」
「アレリアを見てみろ。ゲームをしてバカになったように見えるか?」
「……ちょっと見えるわ」
「……すまん、例が悪かった」
おそらくゲームからは何の悪影響も受けていないのだが、確かにアレリアはちょっと抜けているところがあるからな。
「ミーシャがバカに見えるか?」
「見えないわ。そうね、言いたいことはわかるわ」
「じゃあ、みんなついてきて」
ミーシャに声をかけられ、俺たち三人は遊戯場に向かうことになった。
半ば勝手についてきたミーシャだったが、ついてきてくれて良かった。
アレリアに任せていたら、グダグダになってしまっていたかもしれない。
まあ、それはそれで良い思い出になったとも思うのだが。
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