第76-77話:伯爵が想像以上だったんだが②

小説家になろうでは2話分でしたが、こちらではまとめて投稿しています

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 ◇


 貴族の洋館だというのに、守衛の一人もいないというのは、奇妙だった。


 これだけなら村の存亡を揺るがす緊急事態だったこともあるので仕方ないと言えば仕方ないとも言えるのだが——


 チリンチリン。


 呼び鈴を鳴らしてみる。


「反応ありませんね」


「寝ているのかしら?」


「そんなわけないだろうな。窓からは明かりが見えるし、物音も聞こえる。村の人間じゃないことは一目でわかるだろうから、無視してるんだろう」


 頭上を見上げると、水晶に反射した俺たち三人と二匹の姿が映っている。


 実は俺も最近知ったことなのだが、貴族や金持ちの商人など富裕層の家には、必ずと言っていいほど玄関にこの水晶が設置されている。


 この水晶は高価な魔道具で、言わば監視カメラ。


 近距離にある水晶に反射したものを映し出す性質がある。音声用の水晶は別物なので音声は聞かれていないだろうが、ここで俺たちが何かを話し合っていることは見られているだろう。


 つまり、ダスト伯爵は俺たちを招きたくないのだろう。


 と、そんなことを思っていると——


 ガチャ。


「あっ、ユーキ! 鍵が空きました!」


「入ってこい……ってことかしら?」


「にしては、誰も出てこないなんて客に対して失礼だと思うけどな……。まあいい、入ろう。二人とも念のため気をつけてな」


「はい!」


「わかったわ」


 スイとアースの二匹も、小さく頷いたことを確認すると、俺たちは洋館の中に入った。


 念のため、結界魔法を展開しておく。


「……真っ暗ね」


「ユーキ、何も見えません」


 二人の声が反響する。


 なんとも奇妙な状況だが、仕方ないな……。


「ちょっと待っててくれ」


 俺は洞窟用光源をアイテムスロットから取り出し、使用する。


 俺たちの周りが昼間の屋外のように明るくなり、見やすくなった。


 なったのだが——


「かかれええええ————‼︎」


「「「「「うおおおおおお————‼︎」」」」」


 大勢の声が聞こえたかと思うと、鎧に身を包んだ十人ほどの兵士に囲まれた。


 そのうちの七人から剣を向けられ、三人からはいつでも魔法を放てる格好で手を向けられていた。


「……なんのつもりだ?」


 俺が問いかけると、貴族らしい豪華な格好をした一人の男が顔を出した。


 身長は百六十センチほどで、胴長。


 体重百キロを超えていそうなデブ……じゃなく巨漢だった。


 この男の名前を、俺は知っている。


 俺は立場上王族の肖像画を俺はいつでも見られる環境にあったので、そこで見たことがあったのだ。


 こいつは、ロイジウス領の現領主——ダスト・ロイジウス伯爵。


 先日処刑したセルベール国王とは比較的近い血縁関係にあったと聞いている。


「ど、どうせボクちんを追い出そうとか思ってるんだろ! お前、噂は聞いてるぞ! 王国を荒らしまくってくれたそうだな!」

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