第36話:劣等賢者は入学する
◇
「ど、どうして私が新入生総代を務めることになったのよ!」
入学式当日。
アリスと一緒にピカピカの制服に包まれた俺。ちょっと早めに学院へ着くと、物凄い剣幕で怒られた。
確かこいつは、試験発表日に決闘を申し込んできた銀髪の美少女——確か、フィアだっけ。
「え、伝わってなかったのか? 俺が辞退したから二位の入学生が務めることになったはずなんだが」
「知ってるわよ! あの後引き受けたし? なんならきっちり暗記してきたわよ!」
「なんだ、それなら何か問題があるのか?」
「大アリよ! 名誉ある高等魔法学院の新入生総代として、入学式で挨拶をするのは受験生全員の夢。それを断るなんて……許せないわ!」
と、激おこのフィアだが、アリスを横目で見ると俺と同じくポカーンとしていた。
「えー、私はできれば挨拶なんてしたくないですけど……」
「だよな。目立って得することないし」
「な、な、な、な……!」
「まあ、フィアがどう思おうと勝手なわけだが——あの件は覚えてるよな?」
「私が忘れたとでも?」
「ああ、ちょっと心配でな」
「ええ、もちろん忘れたわ!」
ガクッ……。
「……つまりだな、あの後色々あって話が流れたみたいになっているが、決闘の約束は守ってもらおう。フィア、お前は俺の奴隷だ」
「あの話ね。……今、全部思い出したわ。ええ、約束は守るわよ。それで……ア、アレンは何がお望みなのかしら……? 何でもするから言ってみなさい!」
と言って、俺の肩に抱きついてくるフィア。
えー……奴隷ってこんな懐くもんだっけ?
「フィア、お前に命令する。新入生総代を務めることに関して、文句を言わずやり通すんだ。いや、むしろ喜んでやってくれ。わかったな?」
「そんな……嫌がる私を無理やり従わせようなんて……卑怯よ! ……って、新入生総代?」
「ん? ご主人様の命令を聞けないのか?」
「……アレンがそう言うなら仕方ないわね」
なんで急にシュンとした感じになるんだ……?
これだから女心というものはよくわからん。
「よし、良い子だ。じゃあそろそろ準備があるだろ? 行った方がいいんじゃないか?」
「ぐぬぬぬぬ……そうね、楽しみにしていなさい!」
悔しそうに吐き捨て、俺たちの前を後にするフィア。
その後ろ姿を見つめるアリス。
「フィアさんって本当はアレンと仲良くしたいだけなのかもしれませんね」
「そうなのか?」
「ええ、だって新入生総代を務めることに関してはノリノリな感じでしたし……あとは直感ですけど」
「ふーん、そんなもんか。後で確認してみるよ」
「ええ……アレンってもしかして鈍感だったりします?」
「そうなのか?」
「そういうところですよ」
「はぁ」
俺が鈍感なんて初めて言われたからよくわからないなぁ。
初めて言われたし、今まで特に困ったことはないんだけどな。
◇
異世界の学校でも入学式は形式通りという感じだった。
初めて見た歌詞で適当に校歌を歌わされ、あとは学院長や地方貴族など偉い人のお話。
そして新入生の挨拶。
フィアは覚えてきたであろうセリフを笑顔でスラスラと話して恙無く挨拶を終えた。
なかなかしっかり練習してきたみたいじゃないか。
アリスの言うとおり本人的には譲られて嬉しかったんじゃないか? と思ってしまうほどだ。
最後に新入生が退場すると、今まで一言も喋らなかった新入生がざわめき始めた。
「あのフィアって子何者だ? かわいい……」
「俺、決めたぞ。あの子と結婚するんだ……! いくら貢いでもいい!」
「凛としたあの雰囲気たまんねぇ……!」
初めてフィアを見たであろう男どもが盛り上がっていた。
確かに見た目だけなら可愛いのだが、ちょっと正確に難があるからなぁ。
気持ちはわかるが遠目から見ておくだけにしておくのが幸せだぞ。
「さて、俺たちはSクラスだったよな。どっちだっけ」
「えーと……校内図には向こうの校舎の5階って書いてありますね」
「階段上るのか面倒臭いな……窓閉まってるからジャンプして普通に直接行くってのもできないし……」
「むしろ窓が開いていたらジャンプするっていう発想がちょっと普通じゃないです」
と、新入生らしくブツブツ言っていたら——
「待たせたわね、アレン!」
「いや、別に待っていたわけじゃないんだが」
最後に出てきたフィアが嬉しそうに俺のもとに駆け寄ってきたのだった。
Sクラスは入学試験の成績上位者二十名が漏れなく割り当てられる。
つまり、こいつも同じクラスになるというわけだ。基本的にSクラスには学年ごとのクラス替えがないから、三年間過ごすことになる。
やれやれ、どうしたものかな。
「お、おい……あの男誰だ!」
「フィア様と親しくしやがって! 許さねえ!」
「お、俺のフィアたんが……!」
なんか全然知らない生徒から因縁をつけられる羽目になるし、おまけに——
「横の金髪の子もかわいい……!」
「くそ! あいつ爆発しろ!」
「ちょっと顔が良いからっていい気になりやがってよっ!」
なんか友達ができそうにない気がするんだが……。
なかなか学院生活は前途多難になりそうである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます