第23話:劣等賢者は追い払う
◇
日が落ちる前に王都に着くことができた。
手続きを終え、壁の中へ。
スパイ防止を目的として最近は少し厳しくなってきているのだが、商人は目的がはっきりしているし、俺は貴族という身分があるので、すぐに通してもらえた。
まぁ、明日には高等魔法学院の試験で王国中から受験生が集まるので、特殊な身分がなくてもすんなり入れそうな雰囲気ではあったのだが。
「俺はこれから納品に向かう。ここでお別れになるが、そのうち会うこともあるだろう。達者でな」
「うん、ここまでありがとう」
「明日はちょっと休むが、明後日には早速ラヌゼーイ領に向かうつもりだ。約束通り、エルネスト領の良いところを広めてくるから期待しておいてくれ」
「ラヌゼーイに……?」
「ん、ああ。ちょっと遠いが、その分確実に稼げる案件がある。その反応だとお前さんも行った事があるのか?」
「いや、行ったことはないんだけど知り合いがいるんだ。最近ちょっと便りがないんだけどね」
最後に俺が返事を送ったのが三ヶ月前。
いつもなら一〜二ヶ月くらいで返事が返ってくるのだが、今回はまだ来ていなかった。
これまで一定間隔で連絡が取れていただけに、ちょっとミーナのことが心配になっていたところだった。
「最近は魔物が活発になっているらしくて、輸送中の事故も多い。なんなら、ついでに俺が持っていくぞ?」
「本当に!?」
「ああ。それに普通の郵便よりよっぽど早い。一週間もあれば届けてみせるさ」
「それは助かるよ。今からちょっと手紙を用意するね」
空間魔法で紙とペンを取り出し、返事が来なくて心配していること。高等魔法学院を受けること。合格したら王都に住むことになるので、住所が変わったらまた連絡するという旨を書いて封をした。
「一通でいいのか?」
「うん、これで十分」
「よし、任された。明日の試験……お前さんなら頑張るまでもないと思うが、体調にだけは気を付けろよ」
「ありがと。そっちこそ怪我とかしないようにね」
こうして、おっさん商人に手紙を預け、別れることになった。
とりあえず合格発表があるまではどこかの宿で短期間だけ部屋を借りることになる。
事前に調べておいた宿屋をいくつかあたってみるつもりだ。
王都の地図を取り出し、宿の場所を確認する。
「や、やめてください!」
ん……?
路地裏で金髪の可愛らしい女の子が男に絡まれていた。
どちらも歳は俺と同じくらい。
「いいじゃねえか。本当はナンパされて嬉しいんだろ? んん?」
「嬉しくなんてありません! 迷惑です!」
「へへっ、口では嫌がっても身体は正直だぞ……っと」
息を荒くして女の子に手を伸ばす男。
どう見ても相手は嬉しがっているようには見えないし、会話の内容から知り合いというわけでもないんだろう。
やれやれ。面倒ごとに首を突っ込むのは不本意なのだが、放っておくのもムカムカする。
「待たせたな。ん、その男は誰だ?」
「ンだテメェ! 俺を誰だか知ってて言ってんのか!」
「お前が誰か知らんが、俺の彼女が怖がっているじゃないか。どう落とし前つけてくれるんだ?」
「ンだと……? こんなヒョロいのが彼氏だと? このクソアマ、目腐ってんじゃねえのか! 上等じゃねえか。てめえをぶちのめして心変わりさせてやるよ!」
「随分と失礼な物言いをするやつだな。知ってるか? 頭のレベルと戦闘力は相関があるらしいぞ」
「その減らず口をへし折ってやる! オラァ!」
男のパンチが早速飛んできた。
だが——遅い。話にならないくらいに遅い。
最小限の動きで避ける。
次の攻撃も、その次も、軽い身のこなしで躱し続けた。
「クソ! まさか……見切られてるってことか!?」
「よくできました。気づくのが遅かったけどな」
「へっ、ならこっちにも奥の手はあるんだぜ」
男はそう言って、右手にミスリル製の杖を握った。
「謝ってももう遅い! 死ねぃ! ヘルゲート!」
闇属性魔法か。魔力の流れから軽く解析すると、異界の毒霧を呼び寄せる系統だな。対策としては無毒化するのが鉄板だが——
「に、逃げてください! それはまずいです!」
後ろに下がっていた女の子から悲鳴のような叫びが聞こえる。
「所詮は詠唱魔法。対策するまでもないな」
毒霧が俺を襲い、呼吸とともに体内を猛烈な勢いで充満したのだった。
「へっ、俺に盾つくからこうなったんだぞ! 悪く思うなよ。へへっ、子猫ちゃんもこうなりたくなかったら素直に俺に付き合った方が賢明だぞ? な?」
「俺がどうなったって?」
「な、なんだと……!?」
ナンパ男は俺がこの程度の毒霧で死んだと思っていたらしい。アホだな。
「俺は二歳くらいから時間をかけて毒耐性をつけていた。このくらいならノーダメージだな。さすがに獄炎キノコともなれば舌がピリピリするが、まあそんなもんだ」
毒や火傷、他にも様々な対策を魔法なしでできるようになっている。
冒険者になりたいなら必須スキルだということで、父カルクスと母イリスの勧めで少しずつ獲得していったのだ。
日常にありふれたことすぎて特筆するまでもないことだったが、なぜか意外そうな顔をされているみたいだな。
「どうした? もう終わりか?」
「こ、此畜生! 化物が!」
そう言って、俺に背中を向けて涙目で逃げていくのだった。
追撃しようとすればできるが、目的は困っている女の子を助けることだ。もう襲ってくることはないだろうし、追いかける必要はないか。
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