第六節:湯浴み

「ドレスに着替える前にお風呂入って来よう」と『セリア』がいう。


「イイ女で居るには我慢も必要だけど、清潔感も大事よ」と『セリア』がいった。


 インナーの替えとドレスとドレス用の下着とボンサックを持って、ボンサックの中身にベルトポーチを突っ込んでおいた。これで貴重品はサーコートと刃物くらいではある。


 二人して準備すると地下の浴場へと向かった。


 基本サウナと湯浴みくらいが日常ではあるので湯を大量に使うという価値をあまり知らなかったわけではあるが。


 今回ばかりは普段実家の中で使う温水とは価値が、全然違うということを思い知らされた。


 着替えは全て個室様式でありミドル以下では侵入が許されないという厳しいものであった。


 個室にボンサックなどの貴重品を預け着替え素肌一つ、洗い用の小物とを用意して浴場に入った。


 周囲に鏡が張り巡らされ洗い場と成っており中央がデカい湯船になっている。


 壮観だったこの眺めだけでも。


 後ろから『セリア』がやってきたセリアは普段は髪の色があまり見えないような服を着込んでいるが少し暗めの銀髪でショートヘアであった。


 対する私は普段その長い髪をサーコートのデカいフードの中にしまい込んで闘っているため髪の毛は少ししか見えてはいないが、プラチナブロンドに淡い金色を混ぜた様な複雑な髪色になるのである。


 しかもかなりの長髪で有るため、お尻くらいまで髪の毛で隠れてしまうのであった。


 普段今までどうやって髪の毛を維持してきたのかというと魔法によるものでもあった。

 洗いを魔法によって行い乾かすのも髪が痛まないように丁寧に魔力をコントロールして乾かしていたのである。


 なので髪や地肌は清潔せいけつでいつも綺麗きれいなのであった。


「流石、『ウィオラ』ちゃん綺麗な髪色ね」と『セリア』にいってもらえた。


 女性同士でもファッションのことになるのでうれしいのであった。



「『セリア』さんも綺麗です」と正直にいった。


 体を洗い、けがれを落とし尽くすと、背中を洗いっこした。


 こればかりは一人でやるよりも効率が良かったのは確かであった。


 そして髪を丁寧に洗い毛先まで整える、コンディショナーの様なものも出回ってはいるので、それを使い実家と同様に処理を行う。


 そしてすすぎ髪の間に残らないように丁寧に魔力コントロールを行い伸ばして行く。乾いているタオルに変えると髪をタオルで包み巻き上げた。


 これでショートと同様に湯船に入り湯浴みを行うのであるが湯量がいつもと違うため自らの周囲のみを領域コントロール下に置いて周りは流れに任せてみる。


 大分楽にコントロールできた、こういう地道な訓練モドキも貴重な将来への資産となると師匠には大分教わったのではある。


 『セリア』に聞かれた。


「だいぶ変なことしてるのねえ。それは何をしているの?」と、なのでそれに答えた「師匠に言われた普段の魔力コントロール法ですよ」と。


「確かに魔力は薄っすらと感じるけれども。何がどーなってるのかよく分からないわ」と返答が来た。


「気の流れをコントロールしているようなものですよ」と伝える事にした。


 師匠から、もし誰かに聞かれたらそう答えておけといわれているからでもあった。



「気ねえ?」といわれそれきり質問は飛んでこなくなった。



 そのかわり、「『ウィオラ』ちゃんて見かけによらず着やせするのねとうらやましがられてしまった。


 師匠との修業の成果でもあるのだ、この肉体は筋肉などついてない様に一見するとそう見えるがかなり筋肉質であり体脂肪が少なめなのである。



「流石に浸かりすぎましたかね。少し頭がぼーっとしてきました」といった。


 確かにいつもの湯浴みの時間は、とうの昔に過ぎていた。


「私はもう少し浸かって行くわ、長湯が好きなの」と『セリア』がいった。


「私は先に着替えてますね」というと、コントロールを集中させながら湯から上がるときに湯切りの効果を発生させた。


 湯から上がりきると、髪の毛を元に戻し魔力コントロールで丁寧に乾かしていく、これはいつもやっていることなのでほぼ自然にできるようになっていた。


 そして乾いているタオルでそっと髪を拭き切る。


 あとはいつものコントロール法で水分を振り飛ばし一気に乾燥させた。


 そしてシルクのインナーに着替えドレス用の下着を着用しシルクのドレスを着用していく、師匠との鍛錬で鍛え上げられた体にコルセットは不要であるといえるのであった。


 一応申しわけ程度に胴にコルセットを当てる。靴も履きなおし、着替え終わったものを一旦ボンサックの中に投入する。


 長期の泊まりならばランドリーに出してもいいのだが今回は一泊なのでボンサックの中であるのだった。


 髪留めを髪の先端近くと首筋の辺りに一つづつ留め、肩を見せるようにドレスを留め直した。


 これで出来上がりである。一応どこから見ても貴族の子女に見える様には体裁は整えてあった。


 普段は瞳も全開で出てないためハーフオープンヘルムであるため、どこの誰と言う話になると分からなくなり、知っているのは『セリア』だけになるのである。


 そして少しボンサックを持ったまま『セリア』が出てくるのを待たねばならなかったのは言うまでもない。


……


「長湯は健康長寿の元!」といいながら『セリア』が着替えて来たのであった。


 『セリア』はダークシルバーのショートヘアに合わせ濃い緑のドレスを着ていた。


 髪がえるのである。


 対して私は、自身の髪色に敢えて合わせたシルク色のドレスを着ているのである。


 バレッタだけが漆黒であるため、それが逆に映えて良い感じにうつるのであった。


 テーブルの指定がされているため、何処に誰が座るというのは最初からわかってはいるが、事実。


 男性陣からしたら誰だアレ? になるのである。


 取りあえず荷物や着替えを置くべく、部屋にいったん戻った。


 違和感はなかったが、念のためボンサックから冒険者証とお財布の入っているベルトポーチに白いコルセットと同じカラーのカバーをかけ背面側に回し留めた。


 ベルトポーチの分少し膨れるが、髪で隠れてしまうため問題は無かったといえた。




第三章 第七節へ

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