第60話
最近四日に一度の更新で申し訳ない……休みの期間なのですが、故に他のゲームとかに現を抜かし気味で……取り敢えず投稿。
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女性陣の部屋をルリに確認させた後、俺はクリスに連絡を取ることにした。
王様との謁見。俺の判断で動くのも構わないが、かといってクリスの判断を仰がないわけにもいかない。俺にはまだ政治的観点から思考する知識が足りていない一方で、クリスなら信頼出来る。
幼く未熟とはいえ、俺よりはその方面に長けているのは明らか。
幸い俺は例の通信用
「……お、クリスか? おはよう、刀哉だ」
『トウヤ様と、ルリさん? おはようございます。もしかして謁見の件でしょうか?』
流石にクリスは思考が早い。通信に反応してから一秒と経たずに俺の用件を言い当ててくるため、苦笑いを返してしまう。
「そんなところだ。樹から聞いたんだが、この国の国王陛下に会いに行くんだって?」
『はい、イツキ様方は今日はそのような予定のつもりですが……聞きたいのは、トウヤ様とルリさんがどう行動すべきか、という部分でしょうか?』
「話が早いな。一応俺としては行かない方が良いと思ってるんだが、クリスの考えも無視できないから聞いておこうと」
むしろクリスの判断無しで勝手な行動をするのが何よりもリスクが高い。
本来ならばそこも含めて予測し行動出来ればいいのだが、残念ながらクリスの思考をトレースするには、俺はそちらの方面の知識や経験が足りていなさすぎる。
だからこそ本人に判断を仰ぐ必要が出てくるのだが……クリスは
『トウヤ様の方から連絡して頂かなくても、私の方から直接出向くつもりだったのですが……丁度良いので、今からそちらに向かいますね』
「手間をかけて悪いな」
『平気ですよ。それに……』
と言って、画面の向こうのクリスは何かを見つけたように視線を逸らした。
その時には俺も視線を感じていて、思わず顔を上げる。
「───近くに居たので、手間にはなりません」
廊下の陰からひょこっと顔だけ見せ、金髪を揺らしながら可憐に笑うクリス。そのままこちらまで歩いてくると、一歩程度の間を空けて俺の前に立つ。
一歩程度。身長の低いクリスにとっての一歩なので、話すにしてはかなり近い距離。ルリが鋭い視線を背中に向けてくるが、果たしてクリスにはルリの表情が見えているのかどうか。
「ここだって良くわかったな」
「これだけ近ければ、
ルリの表情を見たのかどうかは知らないが、クリスはわざとらしく俺と距離を取る。
「結論から言いますと、トウヤ様方は出なくても問題ありません」
「じゃあ俺達は今日は自由か」
「はい。ただ、それとは別に少しお話があるのですが……」
「ここじゃ困る内容か?」
ちょっとした立ち話ならともかく少し話し込むとなると、盗聴の心配はそこまでないとはいえ宿の廊下では不足だ。
俺の言葉に頷いたクリスが、近くの部屋の鍵を開ける。予め受付で鍵を受け取っていたのだろうが、つまりそれはクリスは俺が連絡する丁度前ぐらいに、俺と会話することを見越していたわけだ。
鍵の受け取りをそんな前からしておくとは思えない。俺と会話する直前ぐらいに受け取るのが普通だ。そして
「ルリさんもどうぞ」
「……言われ、なくても」
敢えて一緒にいるルリに声をかけた理由までは推察出来ないが、ルリはそう言い返して部屋へと入る。
「それで、話ってのは?」
「はい。これは確定した情報ではありませんが、ヴァルンバ国は近いうちに勇者の存在を大々的に公表するつもりのようです」
改めて俺は口を開きクリスへ問いかけた。
未だに勇者を召喚したことを秘匿しているルサイア神聖国。対してこの国はそれを公表しようとしているわけか。
「それ自体は何も問題はありませんが、恐らくは公表から間も無くして元首会合が行われると思います。内容は他国家との情報共有が主となるはずですが、それもあるため我が国もそれに乗じます」
「それはつまり……同じように勇者を召喚したことを公表すると?」
「はい。少なくともヴァルンバ国が勇者を召喚していると判明した以上、隠す意味はあまりありませんから。というよりは、乗じるしかないとも言えますが」
一国だけが勇者を保有しているのと、二国以上が保有していること。その違いが重要なのだと言う。
「まぁ、俺としては文句はない。ただどうして今それを?」
「公表には当然、勇者本人が必要です。しかしただ姿を見せたところでそれが本物の勇者かは分からない。そうですよね?」
一応姿を変えられる
「ヴァルンバ国や我が国が召喚を公表すれば、当然他国は情報を知りたいと思い、その結果として元首会合の場を設けようとするはずです。実際その要望は通るでしょう。問題は……」
そこでようやく話は本題となるのだろう。俺とルリ、いや俺に視線を流したクリスは、少しため息を吐いた。
「その会議の場に最低でも一人、勇者が必要になることです」
「情報を真実にするためには……確かにそうだな」
「しかしながらタクマ様達は召還して以降まともに訓練ができたのは最初の一週間だけ。それ以降は例の襲撃や、またここまでの移動時間もありましたので、本格的に魔物との戦闘が可能となったのは昨日からです。一方でヴァルンバ国は、迷宮という恵まれた育成場所がある……少なくともレベルではどうしても劣ってしまうはずです」
「クリスは、勇者としての力を誇示する必要がある場面が出てくるかもしれないと考えているのか?」
クリスの言い方では、まるで拓磨達とこの国の勇者の強さを比べる必要性があるような言い方だ。そして事実、拓磨達ではレベルで劣るのは明らか。
拓磨は同レベル帯であれば突出している。しかし明らかなレベル差があれば、そうもいかない。
「あくまで可能性の話ではありますが。少なくとも議題としては勇者召喚に関しての話となるはずで、その際にヴァルンバ国も証明として勇者を一人以上連れていくはずです」
その場合、もしもまだ十分な育成の終えていない拓磨達が出れば、下手に比較されて他国から劣等のレッテルを貼られる可能性がある、か……無論、他国からのその印象が発言力の低下に繋がらないとは考えられない。
具体的に俺には会議の場が想像出来ないが、もし単に魔法や能力を示せと言われた場合、まず拓磨達には不利だ。そういった純粋な力はレベルが何よりも優先される。
「まぁ、不安な点はわかった。けど、それとさっきの話の繋がりが見えない」
「……本当に分かりませんか?」
すると、それまで神妙な顔をして話していたクリスは、俺の事を上目遣いに見てきた。その際にまた距離が近くなり、ルリがムッとする。
話の腰は折れないため、気にしないことにした。
それより、クリスは何故こうも無防備なのか。王族とはもう少し距離感とかも考えるものじゃないか?
ルリとは当然違うはずで、一応最低限の距離はある。しかしそれでもこれは異性として近い。
少し潤んだ瞳は、察しの悪い俺に対してのようにも見える。
「勿体ぶる必要も無いんじゃないか?」
「女の子から言わせるものではありませんよ、トウヤ様」
クリスは俺から口にしないことを責めるように言って、ため息を吐いた。呆れ気味に。
「分かった、悪かったよ。要するにその勇者として俺を連れていきたいって話だろ?」
「分かっているのなら、最初に言ってくだされば良いのに……その通りですよトウヤ様。私は、貴方についてきて欲しいのです」
ぎゅっと胸の前で自身の手を握って、俺の事を見つめてくる。わざとやっているのだろうが、これ以上ないくらい様になっている。
そう、ルリが俺とクリスの間に割って入るくらい。
「……ダメ」
「あらルリさん、何がでしょうか?」
「……トウヤを、連れてくって、ことが」
「そあ言われましても、何故ダメなのでしょうか」
「なんと、なく」
何となくという理由でダメと言い出すとは、クリスも流石に困惑の表情を見せた。
ルリの危惧するところは分かるし、クリスが先程から俺に限定して会話していることからも俺とルリが別れる可能性を考えてしまったのだろうが、それ以前にまず問題がある。
「待てクリス、そもそも俺は勇者としてここには居ない。俺を勇者として連れてくのはマズくないか?」
俺は現状、表向きは勇者ではない。その理由としては、この国と交渉する前から俺がこの国に滞在していたことが上げられる。
別に現在はどこか戦争しているような状況でもなく、入国制限なども特にはない。一般市民などが国を行き来する分には、しっかりと関所を通って入れば問題ない。
一方で俺は、一般市民とは言えない。クリスに深く聞いた訳じゃないが、勇者は見方によっては『兵器』とも取れるだろう。
勇者とは、成長し強くなれば並の人間には敵わない。例え兵器まで行かなくとも、結局のところ単独で軍隊に匹敵するようなものだ。それは俺のレベルの上がり方や、レベルに対するパラメータなどの高さが裏付けている。
そういった軍事的脅威となる人間は、例え俺個人であっても無断で他国に行ける訳じゃない。ましてや俺の所属は仮にもルサイア神聖国となっている。クリスの、と言うとクリスに責任があるようになってしまうが、その管轄だ。
その身分を隠して、単なる冒険者として入国したのは問題がある。現代のように優れた監視設備や情報ネットワークはなかったとしても、黒髪黒目の俺がいつ頃入国したかを探ることは簡単なはずだ。
「あぁ、その事でしたら問題ありませんよ───もうバラしてしまいましたから」
「……バラした?」
「はい。トウヤ様が勇者であること、そしてルリさんとは別に兄妹でないことも含めて、昨日のうちに」
そうやって危惧していた俺の思考を、クリスはサラリと打ち砕いてしまう。
「それは……平気なのか? 俺はてっきり何がなんでも隠蔽しないといけないことだと思ってたんだが」
「何がなんでも、ではありませんが、私も最初は隠しておくつもりでしたよ。しかし先程も述べたように、状況が変わりましたからね。そうなるといつまでも隠しておく方が不利になります。なので昨日王城へ足を運んだ際に、挨拶ついでに情報を公開してきたんです───もちろん、謝礼も含めてですよ?」
「なんというか、思い切ったな」
「行動を起こすなら早いに超したことはありません。無論慎重になるところは慎重になりますが……私のような年端も行かぬ少女には、幾ら冷徹な心を持つ王族と言えど過剰な要求を行うことは出来ませんしね。それが、私と同じぐらいの娘を持つ父親ともなれば尚更」
つまり、その可憐な容姿をもって直に話し合うことで、相手のペースを崩してきたということか。恐らくは王様やその辺りと直接話してきたのだろうが、それにしたってよくやる。
自ら不利となる情報を明かし謝罪することで反省の色を見せ、相手の攻勢意欲を削ぎ、更にクリス自身の容姿と巧みな話術で会話を主導することで最大限被害を抑えた……想像出来るところとしてはこんな所か。
今の口振りだけでも、大人を相手に舌戦で有利に立ち回ったことが窺える。それはそのまま自信の表れだ。
これだけ聞いているとこの国の王様が憐れに思えてくる。同時にそれが通っている以上、人としては悪くないんだろうなとも。
「それでも、見逃してもらう代わりに多少は痛みもありましたが……幸いちょっとした金銭と情報提供で許して貰えました。支出としては問題ない範囲です」
「そこら辺は国同士の交渉ということか。むしろそれだけで不問に落ち着かせたのは流石だな」
「ふふ、もっと褒めてくださっても良いのですよ? 私は王女なのですから、いっぱいいっぱい褒めてもバチは当たりません」
「……凄い。凄い、から、離れて……」
俺に言った言葉なのだろうが、反応したのはルリだった。褒めてと俺に近づくクリスを押し返して威嚇する。
ルリとクリスは仲がいいと思っていたのだが、この街で初めて再会した時もこんな感じだったし……いや、だからこそか。
ただこういう場合、大抵はクリスの方がお姉さんらしく引く対応を取る。見た目的にはクリスの方が一、二歳ぐらいは歳上に見えるので、間違ってはいない。
「もぅ、ルリさんはトウヤ様を独占し過ぎだと思います。私も少しぐらい甘えても良いじゃありませんか」
「……トウヤは、私の、だし」
俺は俺自身の物でありルリのでは無いのだが。そんな所有物宣言されても困る。困るが……正直女の子から言われると満更でもないと言うやつだ。
いや、所有物にされるのは本当に困るのだが。そしてその所有物宣言にはどうやらクリスも呆気に取られたようだ。
「と、トウヤ様は……」
何かを言い返そうとして、だがクリスは口を噤んだ。どうやら思わずといったものだったらしく、そのクリスの反応に俺もルリも首を傾げる。
単にルリの言葉に驚いただけか、はたまた実はクリスの所有物だと主張されそうになったのか。後者の可能性を考えるのは少しクリスの心情を深く読みすぎることになってしまうので止め、追及の声は出さない。
誰のものでもない、なんて言おうとしたのが現実的な線だろう。しかし咄嗟に言い返すにしては取り乱していると判断して口を閉じた。そんな所か。
「……いえ、何でもありません。ただ、トウヤ様にはトウヤ様の意思があるのですから、自分のだと発言することは慎んだ方が宜しいですよ」
「……わかって、る」
果たしてルリが分かっているのかどうか怪しいところだし、なんならその内拘束すらされてしまいそうな未来も僅かではあるものの有り得るような気がする。
だがそんなものは考えたところで仕方の無いこと。俺は逸れた話を戻すことにする。
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それにしても、第三章も六十話ですか。web小説であることに甘えて章毎の話数とか全く気にしていない私です。
次回は明明後日辺り……み、三日で行けるよう、善処致します……。
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