第58話



 すみません今投稿しました!!

 急いでいるのでこちらで、次回はいつも通り明明後日辺りですはい!


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 やって来たのは昨日試合をした場所。拓磨は上半身裸になった後、鞘から剣を抜き放つと、何も言わずにそれを構える。

 とは言っても、俺に向けてでは無い。それは素振りの構えで、拓磨はそのまま素振りを開始した。


 何も言わないところを見るに、やるならやれということか。折角ついてきたので、俺も持ってきた剣を構え拓磨の隣で素振りをしてみる。


 素振りと言えば、やるだけなら誰でも出来る簡単な訓練。とはいえ腕力を鍛えたいだけならともかく、剣の振り方を覚えるという意味ではもちろんただ振れば良いという訳ではない。

 力の入れ具合や姿勢といった項目は当然意識する必要がある。


 無論、俺も拓磨も素振りの動作は身についている。振り上げから振り下ろし、その繰り返しも容易だ。

 しかし横目で見る拓磨のそれは、正直に言えば俺よりも洗練されているような感じすらするほど、堂に入ったものだった。


 朝の鍛錬を毎日やっていたとは言うが、これは確かにその証とも言える。


 無論俺とて負けてはいないはずだ。拓磨のように毎日鍛錬をしている訳では無いが、こちらはその分実戦を重ねている。

 だが、現在の俺の素振りは少し荒々しいもの。力の込め方が下手になった訳ではなく、意図的なものだった。


 「……」


 拓磨は規則的に息を吐きながら、少しだけこちらを見た。だがやはり何も言わずに素振りへと思考を戻す。

 

 思考をスッキリさせたい。なるほど、確かにそうだ。こうしていると雑念も掻き消えていく。故の荒々しさ、故の力任せな振り。

 今は、今は現実なのだ。夢のことは忘れなきゃいけない。


 そのまま俺もまた素振りへと没頭する。全力で行えばそれだけ思考の余裕を無くせて、そうすれば余計なことも考えないで済むだろうと。

 

 そのまま千回ほど振っただろうか。全力でやったとは言え持久力は鍛えられており、息が上がるほどのものでも無い。拓磨もまた初期の頃とは違い、汗はかいているものの涼しい顔をしている。

 

 「───流石に、基礎身体能力が違うな」

 「いきなりなんだ」

 「いや、俺と同じだけやって、明らかに俺よりも力強くやっていてなお汗一つかかないお前に畏怖していた」

 「……レベルの違いじゃないのか」

 「最初の訓練の時も、お前は普通に出来ていただろう?」


 よく覚えているなと自分のことを棚上げして思う。

 まぁ俺と拓磨で肉体に差があるのは事実だ。昨日の風呂の時の話のように、素の肉体は恐らくクラスメイトの中で俺が一番強い。

 

 とはいえ自分から肯定するのも少し嫌味のようになってしまうため、仕方なく聞き流す。


 「それで、鍛錬はとりあえずこれで終わりか?」

 「いや、普段ならこの後は筋トレだ。ただ今日は刀哉が居るからな……どうせなら一人では出来ない対人戦の練習を行いたいのだが、どうだ?」


 そう言った拓磨が、今度はしっかりと俺に向けて剣を構える。昨日とは違い最初から一対一で行うということだが……俺も断る理由はない。


 「良いぞ。ルールはどうする?」

 「一応肉体と剣術の訓練を主としたいからな、魔法は禁止で頼む。ただそれ以外は制限などは無しだ」

 「そんでもって終わりは何となくで決める、か」

 

 拓磨の頷きをもって、俺は同じく剣を向ける。


 純粋な剣術での勝負……ともいかないだろうな。昨日の試合を思えば、格闘が合間に入ることは予想できる。

 本当に拮抗していれば剣と剣のみで完結出来るかもしれないが、実際そうはいかない。魔法が禁止のため何でもありとはならないものの、だからこそ余計に剣での攻防の間に格闘による牽制が入ると予想できる。

 拓磨にとって、純粋な剣技だけで押し切れない以上そういった別の手を使うしかない。


 少しだけ距離をとって、お互いに間合いの外に一度出る。


 空気が張り詰めていくのがわかる。俺はまだ意識をそこに落とし込んではいないが、拓磨は既に完全に入っていた。正眼に構えるのではなく、姿勢を低くして俺の一挙一動を認識している。


 対してこちらは正眼の構え。俺から仕掛けても良いが、一合で終わってしまう可能性もあるため、敢えて少しだけ構えた剣の切っ先をブレさせる。


 そうすれば、拓磨は弾かれたように飛び出した。

 甲高い金属音が鳴り響き、一瞬の鍔迫り合いとそれを弾き返す音。


 その合図を持ってして、俺もまた拓磨のように意識を戦闘へと落とし込んだ。





 「はぁ、はぁ、はぁ……体力の限りを、尽くしても、ダメとはな……」

 「大丈夫か、ほれ」


 その結果、拓磨は片膝をついて息も絶え絶えの状態になってしまった。全身から汗を噴出して、言葉の通り体力を使い果たしたのだとよくわかる。

 倒れこまないのはせめてもの意地だろうか。俺は目の前に水球を作り出して、拓磨の方へそれを向けてやった。


 意図を察した拓磨が頭からその水球に突っ込み、そのまま俺が魔法の座標維持のみを解除して水を重力の支配下に戻せば拓磨は体全体に水を浴びることとなる。

 

 拓磨は下げていた頭をバッと勢いよく上げ爽やかに水を払い、それが気力の回復を手助けしたかのように立ち上がった。


 大雑把にではあるが、汗を流してスッキリした様子。


 「ふぅ……助かる」

 「どういたしまして。流石にあれだけ汗をかいたまま風呂に行くのもなんだからな」

 「気遣い感謝する。それにしても、俺がこれだけ疲れているのに対し、お前はやはり汗一つかいていないとは……流石、としか言えないな」

 「基本攻めてたのはお前だし、動きの量が違うから当たり前だ」


 別に今の時期気温が高いわけじゃない。拓磨が汗をかいているのも激しく動いたことで生じただけで、力を使うように動かなければ汗をかくほどのものでもない。

 それはそのまま俺と拓磨の間に差があることを示しているが……拓磨はその差自体にネガティブな感情を抱いてはおらず、相変わらずだなと。


 「さて……俺はこの後シャワーを浴びに行くが、刀哉はどうするのだ?」

 「や、俺はパス。そろそろルリが部屋に来てる可能性があるからな」

 「……これは真面目に言うが、随分と気にかけているな」

 「変な意味は無いぞ。一応一緒に寝泊まりもする仲で、ただでさえ俺は懐かれてるし、そうなるとこっちも優しくしたくなるってだけだ」


 勿論実際にはそんなものではない。拓磨が聞きたいのも、使っているのは『気にかけている』という言葉だが、その奥には『異性間のものがあるんじゃないか?』という意図が見えている。

 でなければ、『真面目に』なんて前置きもしないだろう。拓磨もまたどこかで、ルリの俺に対する好意をある程度見抜いたということだ。


 それをわかっているから、意図を理解したと知らせた上で否定する。


 「そうか。先に言っておくと、別に刀哉とルリの関係が好ましくないと思っている訳では無い。だから何かあっても、俺や他の奴らのことは気にせず進めてくれ」

 「その言い方がなんかいかがわしいんだけどな……こっちも言っとくと、ルリはあの見た目だから恋愛対象になることはない」


 何よりこの言い方が最も説得力のある言葉だろう。ロリコンでもない限りルリとそういう関係になるのは有り得ないと。

 俺にその方面の癖があるかどうかの審議はさておき……拓磨は肩を竦めた。


 「確かにそうだ。だが俺は、好きになる時は見た目や年齢など関係ないと考えるタイプなのでな」

 「……ロマンチストだな」

 「そうでもない」


 拓磨らしいと言おうか。本当に魅力的な女性なら確かに見た目や年齢は関係ない。小さな子供や、逆に老齢の人にその魅力を感じたのであれば、そこから好きになることも不思議ではない、のか?

 少なくとも俺はルリに対し魅力を感じている。それは何と言おうか……性的なものであり、同時に距離の近い相手への愛情的なものだったり。


 そう考えると、案外拓磨のその言葉は俺に対して的を得ていることになる。容姿の問題でもないのは確か。


 ただ───そこに恋愛的なものが入っていないだけなのだろう。


 「では俺は先に失礼する。鍛錬、付き合ってくれてありがとう」

 「こっちこそ楽しかったからお互い様だ。風呂でゆっくり疲れを癒してきてくれ」


 微笑みを浮かべ、水を風魔法で落とした拓磨は、服を着直して浴場へと向かって行った。その背中を見送り、俺も剣を片手に宿内へと戻る。


 そう言えばと、俺は自身の思考がかなりスッキリしていることにその時気がついた。思い出してしまえば多少は這い戻ってくるものがあるものの、確かに気分は上々。

 無理に忘れているわけでもなく、いい具合に思考の明るさを取り戻せたようだ。


 そうなると、これを繰り返せば結果的に睡眠も問題なくなるか……いや、そう上手くもいかないだろう。

 

 何にせよ部屋に戻ろう。ルリのことだ、起きたら一度俺の部屋を訪ねる、くらいはしていてもおかしくはない。

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