第52話
今回、戦闘!
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宿を一階まで降りて建物の奥の方まで進むと、丁度宿の裏手に当たる部分に広いスペースが用意されていた。
特に特殊な要素がある訳では無いが、自主鍛錬はもちろん試合をするにもスペースは十分。
アイテムバッグから取り出した剣を携えながら中央付近まで来れば、拓磨は堂々と、樹は渋々と、竜太は好奇心と不安半々で、雄平は虚勢を張りながらこちらと相対するように並ぶ。
こうして試合を行うのは王城に居た時以来だが、当然四対一なんてのは経験していない。一抹の不安を抱えながらも正眼に構えれば、まるで別人になったかのように全員の顔つきが変わる。
「……そういうの見ると、元高校生ってのを忘れるな」
「お前こそ、佇まいが強者のそれだな」
拓磨はともかくとして、樹と竜太、そして雄平の三人もすぐに空気を察して戦闘態勢に入った。そこに先程までの少し弱気な雰囲気は一切なく、完全に切り替えられている。
高校生と言うにはあまりにも場馴れしすぎている。命のやり取りの場に身を晒せば、否が応でも体が適応していくのかもしれない。
「そりゃどうも。言っとくがこっちからは攻撃しない、なんて優しくはしないからな」
「もちろんだ。最悪叶恵も居るからな、殺されるのは勘弁してもらいたいがそれ以外なら躊躇う必要は無い。代わりに俺達も本気で行かせて貰うが」
随分な覚悟だ。その言葉に流石に雄平が顔を引き攣らせるが、竜太と樹はなんだかんだ顔色を変えない。
肩を竦めて大袈裟なと笑うが、拓磨の覚悟自体は本気だろう。俺はもちろんそこまで怪我を負わせるつもりはない。少なくとも意識できる範囲では。
改めて構え直して、俺は顎で指し示す。好きに仕掛けてどうぞ───その意図を受け取った拓磨は、誰に何かを指示するでもなく一直線に俺へと突貫してきた。
「セェイ!!」
見るからに全力で振るわれた剣。拓磨の筋力はクラスメイトの中では俺に次いで高く、肉体のスペックもそれに同じ。もしもレベルが同等なら、正面から片手で軽くいなすなんてことは難しいに違いない。
だが実際は、レベルにかなりの差がある。俺と拓磨の間には無視できない程の開きがあり、速度も乗せた拓磨の全力の一撃を正面から容易く弾き返した。
「ッ!?」
腕が大きく外に吹き飛び、胴体を晒す。ここで一撃ぐらいなら追撃を入れることも出来るが……いや、とその選択肢を排除して即座に右側に生じた衝撃波を剣で受け防御。
樹の魔法か。あいつの魔法発動速度は迷宮で確認済みだが、拓磨が弾かれてからにしては明らかに反応が早すぎる。
読まれていた、いや読んでいたと言った方が正しいか。じっくりとは無理でも、俺とオークの戦闘を見る機会はあった。そこから最低保有戦力ぐらいは把握しているはずだし、なんなら樹はこの中で唯一、俺でも真似出来ない圧倒的な頭脳を持っている。
拓磨が攻撃する前からこうなることを読んでいたとなれば、随分と凄い予知能力である。
「流石に、うちのクラスの中でもトップクラスにチートなだけある」
「らぁっ!!」
拓磨は隙を防ぐためすぐに離脱し、代わりに竜太が前へと出てきた。その手には相変わらず武器は握られておらず、鋭い拳が俺の顔目掛けて繰り出される。
それを左手で打ち払うも、素手の攻撃というのはとにかく出が早く、片方が防がれてももう片方があるため実際相対すると中々に厄介な攻撃手段だ。
これがある程度レベルの実力なら武器がないことは単に不利へと繋がるが、竜太はかなりの練度がある。迷宮でも思ったが、自己鍛錬を欠かさなかった証だ。
下手に剣で攻撃しようものなら、その身軽さから避けられ大きな隙を晒す可能性にも繋がる。いっその事俺も無手になった方が戦いやすいとも思われるが、簡単に武器をしまわせてはくれない。
二度三度と素早く繋がる連撃を最小限の動きで躱し続けるも、それは俺にとって不利に繋がる。戦っている相手は竜太一人ではない。
不意打ちの右脚による蹴りを防いだところで、俺は魔力を感じ取り背後へと意識を向けた。
かなり巧妙な魔力の隠し方。樹かとも思ったがすぐに違うと悟る。
数十にも及ぶ直径一メートル程度の火球がいきなり背後に出現したのだ。
「雄平か」
「夜栄───ぐっ!?」
流石にこれには驚くも、それでも竜太の対応は疎かにしない。
恐らくは隙と見たのだろうが、生憎とそう簡単にはやられはしない。竜太の攻撃を回避して、追撃を許さぬ速度で鋭く脇腹に蹴りを叩き込む。
体格に差があり、かつ筋力も違うとなれば、蹴りをもろにくらった場合かなり吹き飛ぶ。受け身を取れず吹き飛んだ竜太を見届けずに背後へ振り向けば、既に炎の球はかなり近くまで迫ってきていた。
今更ながら、あの厨二病で戦闘時ですら名称改変を欠かさなかった雄平の詠唱がなかった、となると……かなり本気を出しているな。
魔法名が分からないので合っているかどうかは分からないが、該当しそうなものは火属性上級魔法の『
無詠唱で上級魔法を発動するとは、雄平のやつ、予想以上にレベルが高い。火属性に突出した才能があるのは知っていたが、これは評価を改めなければならないな。
「しかも、追尾性能ありと」
回避した先に誘導されてくる火球を見て零す。恐らくは剣で迎撃しようものならその場で爆発を引き起こすはずで、それに対応するためには迎撃直後の高速回避か転移が必須となる。
追尾がきかないほどギリギリまで引き付けて地面への着弾を誘導……いや、数が多いから難しいか。
だが雄平の魔法があることで拓磨達も迂闊には近づけない。爆発に巻き込まれたらむしろ味方への被害の方が大きい。
───ただし、代わりにさらに魔法が来る。
「『
雄平の火球の動きに合わせた完璧な魔法発動。回避先すら読んだそれが樹の魔法であるのは疑いようもなく、だが身体能力にものを言わせて無理矢理避ける。
透明な槌が振るわれたような音が耳元で聞こえ、それの回避にリソースを割いたために雄平の火球が三つほど同時に俺へと着弾しそうになった。
食らったら当然俺も大怪我だ。それは嫌なので、仕方なく魔法で防ぐことにする。
振り上げた腕。それにリンクするように透明な壁が俺と火球の間に迫り上がると、その壁は俺を追いかけていたそれを一手に引き受けた。
数ミリとない薄い壁の向こうで、着弾した火球が次々と爆発を引き起こす。上級魔法なだけあって一つ一つもかなり強いのに、それが一気に何十と来るのだ。
周囲の空気が振動しかなりの衝撃が来るが、俺の魔法を破ることは無い。
そもそもの基礎練度、魔法力に差があるのだ。加えて時空魔法は、扱いが難しい分効果という意味では一際強力。
もちろん同レベル帯なら十分に脅威だったのも事実だ。もしも王城に居た頃の俺ならば、それなりに本気で挑まなければ対処が難しかったに違いない。
それを思えば、正直なところこいつらは予想よりも全然強い。現状苦戦する、とまではいかないがそれでももし俺と同じレベルの、俺じゃない奴が相手なら十分に通用したはずだ。
レベルは目安ではあるが、所詮は目安。拓磨達の強さを見れば、やはりステータスから戦力を断定するのは難しいだろうことがよく分かる。
俺もそろそろ攻勢に出るか───そう考えた矢先に、突然目の前に拓磨が
『
「これも、対応するか」
「一応俺も使うからな」
基本的には回避や移動としての使い方が主とはいえ、時空魔法自体が自身が持つ主要な手札の一つ。想定はしているとも。
右手で剣を持ち牽制しながら、左手を頭上へ持ち上げる。
再びの雄平の援護。頭上から降り注ぐ『
一発ならまだしも、雄平は魔法に専念できるのをいいことに何発も撃ってくる。間違って拓磨の方にでも撃ってくれたらいいのだが、そんな初歩的なヘマもしてくれそうにない。
そこに更に樹の魔法が背後から来るのでかなり辛い。風の槌をしゃがんで避ければ、もちろん拓磨がそんな隙を逃す訳もなく剣が降ってくる。
低い姿勢から後方へバックステップ。しかしその途中で竜太がタックルするように殴りかかってきた。
この姿勢では足を止めてから体勢を整えるまでに少し時間がかかる。雄平の魔法をさばきながら、俺は離脱するために片足だけ地面についてその足の勢いで宙返りを行う。
本来魔法の座標指定は、感覚とはいえ視覚や自身との相対座標で把握するものだが、当然激しい動きをすればそれだけ座標の取得は困難となる。今回も、普通なら上から降り注ぐ雄平の魔法を方向が変わり続ける宙返りをしながらピンポイントで相殺するのは難しいものだが、上手くできている。
それを可能とする能力が備わっていることに感謝しつつ、改めて体勢を整えて竜太と拓磨に相対する。
ここからが本当に四対一であると考えていい。樹と雄平が援護に徹して、拓磨と竜太が肉薄する完全な連携プレイ。雄平は魔法力に優れ、樹に関しては避けにくいタイミングでばかり攻撃を入れてくるため、それをどうにかしなければならない。
もちろん、どうにかするつもりだ。
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実は多対一の戦闘って描写が苦手なのですよ。なんか、皆をいい感じに働かせるのが難しいと言いますか、今回だと後衛の樹達と前衛の拓磨達を同時に動かすのが大変なんですよね。
ついでに言うなら、人間大の相手に二人以上で肉薄する描写も苦手です。
でも避けてたら慣れるはずもないので取り入れていきます。魔物や一対一のような状況よりは下手かもしれませんがご容赦を!
ちなみに次回なのですが、明日私の大好きなというか一番推している小説の新巻が出るのですよ。で、読み終わったあとまたシリーズを読み返したいので、次回が一日二日遅れてしまうかも……!
あと先に言っておくと、次次回ももしかしたら遅れるかも……日曜日に一日用事が入っておりますので。
そんな感じです。
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