第38話



 うぉぉぉぉ寝落ちしてました!

 ちょ、ちょっと遅れてしまいましたが、投稿ですどぞ。



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 「いらっしゃいませー!」


 快活な店員の声が店内を満たす。宿の人に近くの服屋を聞いてやってきたその店は、綺麗な内装に女性物の服を取り扱っている場所だった。

 特に俺が眺めても違和感は抱かず、ルサイアの王城にあった服でも思ったが、結構地球のものと同類のデザインの物が多い。どこにでも似た感性の人間はいるということだ。


 ここに男たる俺がいるのは場違いな気がするが、幸い店内に店員以外の人は居ない。別に人気が無い訳ではなく、夜に近い時間帯に盛況となるのがこういう場では無いのだろう。


 ただ客が俺達だけだと店員に絡まれてしまうかな、と思ったのもつかの間、その店員が動き出す前にルリがどんどんと俺の手を引いて服を探し出す。


 未だ嬉しそうなのは、先の会話が抜けていないのか。ご機嫌であることを察するのは容易だ。


 「……♪」

 「楽しそうだな。普段服はこうやって買わないのか?」

 「ん……いつも、クリスとかが、用意して、る、から」

 

 それには素直に驚いた。クリスがルリの服を用意しているとか、どうなのだろう。普通に考えたら、あまり想像は出来ない関係だ。

 ルリが単なる司書で無いのは、この戦闘力やクリスの反応からも窺うことができる。けれど服まで用意していたとなると……いやでも、面倒見の良さそうなクリスのことだ。ありえないことではない、のかもしれない。


 そうなると、クリスが用意したというのだからあのローブはもしかしたら単なるローブでは無いのだろうか。例えば魔法的な効果のある素材が使われているとか。


 気になるが、とはいえあまりクリスのことを考えていると以前のように折角のルリのご機嫌モードが薄れてしまうかもしれないので、思考を区切る。


 ルリの体格に合う服といえば、大きさも相まって子供っぽいものが多い。しかし見た目の印象という意味ではルリが着ていても何ら違和感は無いだろう。

 本人がどう思うかは別として。そして今回は本人の意思を何よりも優先する。


 「どういう服が好みとかあるか?」

 

 服を眺めながらルリに問いかける。似合う似合わないもそうだが、ルリ自身が気に入る服であることが大前提だ。

 もちろん、すぐに決まるとは思っていない。今回は突発的な買い物で、そうなると自分が気に入る服を探すのも少し時間がかかるかもしれないのだから。

 ただルリは、そんな明確なものがある訳では無さそうだが。


 「……むずか、しい」

 「そうか、ならゆっくり決めよう。別に一枚に絞る必要も無いから」


 この辺りの服の値段を見てみると、子供向けというのはあるかもしれないが、大抵銀貨で済む。中には金貨が必要な服もあるが、それはある程度大きいサイズの服に多い。


 高級洋服店ではないことに今更ながら安堵しつつ、これならルリの服も複数買えそうだ。


 問題は、ルリ自身は進んで服を選ぶような性格でないことだろう。問題というか、別にそれはそれで構わないだろうが、服を選ぶ基準も曖昧な可能性がある。

 

 なので試しに、俺が一枚服を選んでみる。


 「部屋着やパジャマならラフな格好でいいと思うし……こういうのはどうだ?」

 「……分からない」


 明らかにパジャマ用の服があったのでそれを見せる。全体的にモコモコとしたピンクと薄い水色のボーダーのそれは、ボアパジャマだ。

 ルリは首を傾げて言うが、嫌という訳では無い様子。やはり単純にどう選んだらいいかが曖昧なのだろう。


 「ま、分からないなら着てみればいい───店員さん、試着大丈夫ですよね?」

 「大丈夫ですよー! この時間帯は人もあまり来ませんので心ゆくまでどうぞー!」


 この店員さんは中々良い人だなと、その反応で頬が綻ぶ。ルリに服を持たせて店内の各所にある試着室の一つに連れて行けば、少し戸惑っているようだったが取り敢えずはその中へと入っていく。


 「……着れば、いい?」

 「あぁ、試しに着てみろ。この時間は人もあまり来ないみたいだし、ゆっくりでいいから」


 勝手が分からなそうなルリは服を持っておどおどとしている。そんな姿に苦笑しつつ、俺は試着室のカーテンを閉める。

 試着室の中にはちゃんと鏡もあったので、自分で確認も出来るはずだ。ある程度それで似合ってるかどうかは判断できると思うし、そもそもルリに似合わない服をチョイスなんてしないが……ゴソゴソという衣擦れの音が耳に届き、やがてちょっと恥ずかしそうな「……ん」という声が聞こえてくる。


 今のは俺に対してでは無く、鏡を見て零した言葉のようだ。普段ローブしか着てないようだし、慣れない服に困っているのかもしれない。それでも微妙そうな雰囲気ではない。


 「どうだ?」

 「……ちょっと、待って……」


 どんな感じかカーテン越しに聞いてみると、ルリは少ししてカーテンを開けた。


 「……わ、悪くは無い、と、思う、けど……」

 

 ローブを脱ぎ代わりに着たそのパジャマは、少しだけサイズがあっていないため袖がルリの手を半分ほど隠していた。

 恥ずかしさからか右手は口元を隠すように上げられていて、左手は裾を伸ばすように服を掴んでいる。普段のローブ姿とは違いパジャマ姿というのは非常になんというか、こう……。


 恥ずかしがっているのも相まって、非常に愛らしい姿だ。単に少女だからというよりも、プライベートを感じさせる服装なのがより一層引き立てているのだろう。


 「そんな恥ずかしがらなくても、良く似合ってるぞ。凄く可愛い」

 「…………ん」


 嘘偽りない感想を伝えれば、ちょっとだけはにかみながら頷く。

 

 遠くで店員さんがめっちゃニヤニヤしているが、まぁ、分かる。俺も気を抜いたらニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべてしまいそうになるのだから。


 「どうだ、その服もいいが他の服も試してみないか?」


 上手く服に興味を持ってくれたルリに、視線を移しながら促してみる。これ以外にも当然服は沢山あるし、俺も色んな服を着たルリを見てみたい。

 そうして着た中で、ルリが気に入ったものを選んでもらおう。

 

 「……そう、する」


 俺に言われてはっとしたルリは、少し他の服をそこから眺めて、声音を上げて頷いた。

 



 ◆◇◆




 たまには異世界に居ることを忘れて、地球の頃のように買い物を楽しんだりするのもリラックスになるらしい。


 そろそろ慣れてきたのか、ルリは着替えて服を見せると、華麗にクルっと一回転してくれる。運動神経が悪いはずがないので、その動きは見事なものだ。裾が良い感じにふわりと舞う。


 ちなみに今着ているのは、戦闘等の予定が無い時の外用の服として、ワンピースだ。長袖だが、全身をすっぽり覆うローブと比べると首周りや足周りの露出度が高く、あまり見ることが無いルリの肌はやはり真っ白くて眩しい。


 正直艶かしい感じがしないでもない。


 他にも服はもちろん見たのだが、個人的に猫のようなものを模した着ぐるみパジャマがダントツで可愛さ溢れていたと思う。

 

 「……あれは、恥ずか、しいから」

 「俺は好きだけどな、ああいう服」


 子供っぽさという意味でも確かに突出しているが、ルリには似合っている。フードつけてにゃーんとポーズを取られていたら、確実に気色の悪い笑みを浮かべてしまっていただろう。

 

 いやいや、今はワンピースだ。


 「でもやっぱ少しローブに似てるからか、ルリはこういうのが一番似合ってるように思えるな」

 「……可愛い?」

 「凄く可愛い。抱きしめたくなるぐらいにはな」


 もちろんこんな場所で抱き締めたりはしないけども。いやこんな場所じゃなかったら抱き締めていたかと聞かれたら、そうじゃないけども。

 だからルリさん、『なら抱きめして?』と言わんばかりに見られても困ります。それは比喩だし、やったら遠くの店員のニヤニヤが限界突破して鼻血でも吹き出してしまいそうだ。


 あと俺が困る。胸が痛いから。


 自分の服を見下ろして、気に入ったのかもう一度クルっと回る。ただ今度は勢いが強すぎたため裾が結構危ない部分まで上がってきていた。


 フワリ───ルリの膝が俺からも見え、ストンと。


 「……見た?」

 「一応現実的なことを言っておくと、この角度からだとどう頑張っても見えない」


 予想していなかった服の動きにルリが慌てて手を下ろし、裾を押さえているが、安心してくれ。

 この角度ではそれこそ腰あたりまで前回にたくし上げない限り、見えない。


 「…………残念、そうに、してもいい……のに」

 「ルリさん?」

 「……でも、これ、しっくりくる」


 少し不穏な発言をしたルリは、誤魔化すように何度もワンピースに視線を落とす。

 先程も言ったように、ワンピースは上衣とスカートが一緒になっているもののため、服の系統としてはローブに近いこともない。そういう意味でもしかしたら普段通りの感覚に似ているのかもしれないな。


 「…………トウヤ……これ、買いたい」

 「そんな上目遣いで頼まなくても、元から買うつもりだから。あと先に着た服の中からも気になったのを幾つか選んでいいぞ」


 どうやら他の服よりもよほど気に入ったらしい。上目遣いしなが袖をぎゅっと掴んでくる。

 そんな事しなくても買うとも。だって、一応この金はルリとの共有資産であるし。買ってやるとか、そんな施しを与える立場ではない。


 まぁそれはあくまで実際にはという話であって、ルリが俺に強請って、それを俺が承諾するという構図を否定するものでもない。

 こっちの方がお互い距離が近くていいじゃないか。


 ルリに試着した中から買う服を選ばせれば、やっぱり嬉しそうだ。普通の女の子らしい服はルリにとってはあまり縁がないものだったようだし、俺としても目の保養が出来て良かった。

 

 あと何気にしれっと例の着ぐるみも選んでいるのが……あの服で隣で寝られたら、危ない。


 取り敢えずルリが選んだ数着の服を購入することに。外を見ればすっかり日も暮れているので一時間ぐらいは居ただろうか。


 それを店員のところまで持っていき会計をしていると、店員さんはにんまりと笑みを浮かべた。


 「とてもいい物を見せて頂きましたので、少しまけておきますねー」


 そう言って服一枚分程度の値段が引かれる……いいのか? いいんだろう。店員さんがそう言っているのだから有難く割り引かれておこう。

 これも全部ルリのお陰であるのは想像に難くない。確かにこんな可愛い子が初々しく服を選んでいたら、誰であっても何となくおまけしてしまいたくなる。


 「ありがとうございましたー!」


 


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 猫ちゃんがこの前書きや後書きを書く画面でスマホを何度も踏みつけまして( ̄▽ ̄;)


 はい、次回はいつも通りで!

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