第18話




 異世界における飲食店も、地球とそう変わることはない。フードコートや、ファストフードが食べられるような所こそないが、レストランという意味ではここはとても豪華な内装をしていた。

 

 宿からそう離れていないのもあってアクセスはしやすかったが、店内は満員。慌ただしく走り回る店員と、満足そうに料理を頬張りながら楽しげに喋る客の喧騒は、テーマパーク内の店を彷彿とさせる。


 「……人、多い……うぅ」

 「席に座ればある程度は落ち着くと思うぞ」

 

 隣で呻くルリは、人波に疲れたようだ。迷宮でこそ問題なかったが、この街の、しかもこの時間帯は人が多すぎる。宿を探すまでにも少しさまよったし、精神的な疲労は来るだろう。

 俺の袖を掴んで体を支えるようにしているのが可愛い。


 見たところ形式も日本のものと変わらなそうだ。店に入って、店員さんに席に案内されて、メニュー表を見て、決まったら店員さん呼んで……そんな感じなので、俺としても変に戸惑わずに済む。


 席が空くまでの間少し店の外で待機して、店内の客が一組出てきたところで中へと入る。袖が引かれる感触を伴って入れば、慌ただしいながらもスムーズに俺達は店員によって席へと案内された。


 テーブル席なのは、ここ以外にもう空きがないのだろう。こちらと対面の椅子で四人程度は腰掛けられそうだが、取り敢えずは二人で使う。

 座り方は片方に俺とルリでもう片方は無人……なんかシュールじゃないか? いや、隣に座られて嫌な訳では無いのだが。


 チラリと店員さんの視線が通る。それならそれでいいと思い、メニュー表に手を伸ばした。

 反対側の椅子が空いていて、かつこの盛況具合なら、店側としても回転を早くしたいところなのだろう。取り敢えずはスルーしてルリにも見えるように広げる。


 なお、メニュー表は開いて見ればどちらかと言うとお品書きと言った方が正しいような内容で、料理の写真が載っている訳ではない……この割とハイテクな技術のある世界に写真的な技術がないのかと言われると、中々難しいところだ。


 魔法でどうとでもなりそうに思えるのは、まだ無知な証拠なのだろうか。


 肉料理を中心とした品名が並ぶそれを見ていれば、ルリはひょこっと小さな指で一つ示す。


 「……私、コレ」

 「えっと『スワンプロッグの炙り焼き』……スワンプロッグってのは?」

 「……カエルの、魔物」


 ほぅ、この世界にもカエルが居るのか……いやいや、魔物の肉?

 よく見て見れば他にも『オーク肉の香草焼き』とか『コカトリスの卵焼き』など、明らかに魔物の名前が入った料理がある。


 「美味いのか?」

 「……結構、美味いよ」


 別に魔物が食えることは知っているが、まさかこういった飲食店で出されるようなものとは思わなかった。俺のイメージ、食料に困った時の救済というか、あまり美味しそうなイメージがないのはゴブリンなどの先入観からも仕方ないだろう。


 しかし、なるほどオークの肉か。異世界ラノベでは基本美味いか不味いかの両極端として描写されることが多いような気がするが、出されているからにはきっと大衆的に美味いとされているものに違いない。


 コカトリスの卵に関してはよく分からないが。コカトリスってそんな弱い魔物なのか……と思いながら値段を見てみて、金貨という文字があったので即止め。


 様々な料理が並ぶ中、やはりと気になるのはオーク肉。


 「んー、試してみるかな……ルリ、オーク肉はどんな感じだ?」

 「……臭みがあるけど、味は美味しい……そこに書いてある、みたいに、香草を使う、のが……基本。私は、こっちの方が、好き、だけど……」

 

 スワンプロッグとやらの肉が個人的に好きそうなルリの言葉に、頷く。ならオーク肉にしてみるか。

 流石に食えないからと言って残すような年齢でもないし、試すにはちょうどいい腹具合でもある。


 近くを通りがかった店員に声をかけて、俺とルリの希望を伝える。飲み物は少し考えた末に俺はタダで飲める水を、そしてルリは少し考えた後に、お品書きからなんと『ワイン』を頼んでいた。

 

 ……ワインと言うからには葡萄ぶどうなのか。葡萄もこの世界にあるのか、地球と似てるな異世界。

 いやいや、それって未成年が飲んではいけないのでは?


 「……何?」

 「いや、ルリは果実酒飲めるのかと思って」

 「……飲める、けど。美味しいよ?」

 「あぁ悪い、そういう意味じゃなくてだな。酒とかって特に年齢制限はかけられてないのか?」

 「……? 制限、かける必要、ある……?」


 気になったので聞いてみれば、そもそも前提が違いそうな雰囲気。この世界では特に酒は体に悪いとかそういう感じでは無いのだろうか。

 まぁ肉体からして違う感じだしなぁ……酒で体を弱らせるようなヤワな人はそう居ないのかも知れない。


 もしくは、医学が発展していないか。もしくはもしくは、使用している材料がそもそも違うとか。体の構造自体は俺達とそう変わらないはずだが。

 何にせよ、つまり子供でも普通に飲めるということなのだろう。


 成人まで禁止されている日本人としては多少の忌避感があるが、そういうことなら後でちょっと試してみたい気もしなくもない。

 今の俺は一応この世界に生きている。日本の法律を気にする必要は無い。


 流石に今は自重するが。


 ルリのワインという注文にも特に違和感を抱いた様子もなく、店員はオーダーを承諾して下がる。本当に年齢制限はない様子。


 ワインに微かな未練を残しつつお品書きを戻し、一息ついたところで再び別の店員がやってくる。

 客を席に案内している店員だ。


 「すみませんお客様。こちらのお客様と相席となってしまってもよろしいでしょうか?」


 そう言って店員が聞いてくると同時に、背後に居た女性が会釈をする。


 スラッとした、背の高い人だ。170センチは超えているだろうか。

 帽子を深く被っていて目元が分かりにくいが整った顔立ちをしていて、何より顔や手などは非常に白い、透明感のある肌をしている。

 その見た目は二十代前半に見え、相変わらずこの世界の人間の容姿は整っているらしいなと。


 俺も軽めに会釈を返しておいて、一応ルリに目で確認する。

 そうすればルリは控えめに首肯した。乗り気ではないように見えるのは、まぁ、他人との食事というのがあまりなのだろう……だが、この席をわざわざ片方しか使っていない俺達が悪いというもの。


 構いませんと了承すれば、女性は促され席へと着いた。

 そのままメニュー表を見ることなくすぐにその店員に「コカトリスの卵焼き一つ」と指を立てながら慣れたようにオーダーする───たまたま俺が気になっていたものだっただけに、視線が向いてしまう。


 女性は俺の視線に気がつくと、少し子供っぽい笑みを浮かべた。


 「なんだい少年、私のことをじっと見て」

 「あぁいや、高いのによく頼むなと思って。気に障ったならすみません」

 「別にそういう訳じゃないから安心してよ。でもそういう理由か、てっきり私に惚れたのかと」


 どうも、随分とフレンドリーな人だ。口調も相まってどこかサバサバとした印象も受ける。

 流石に惚れたとかどうの話は冗談だと思うので、下手に反応はしないようにした。からかわれているような気もするのだ。


 まぁでも、冗談を言えるレベルでは確かに美人だ。


 俺が愛想笑いを浮かべていれば、特別反応がなかったことを気にした様子もなく女性は再び口を開いた。

 どうやら良く絡んでくる人らしい。


 「っと、どうせだから自己紹介でもしておこうか。私はテレシア、よろしくね」

 「俺は刀哉、こっちはルリです。テレシアさん、よろしくお願いします……けど、少し失礼な言い方になりますが、ただ相席で食事をするのにわざわざ自己紹介が?」

 「相席とはいってもここはテーブル席。もう私と君達で一つのグループみたいなものじゃないか。だったら仲良くしておかないとね」




──────────────────────────────



 はい、中途半端な切り方ですが、まぁね、仕方ないですね……これ以上続けるとそれこそ区切りが見つからなくて、今日中に書き終わらなそうだったので( ̄▽ ̄;)


 はい、プロセカですね(もういい)


 次回は明後日辺り、と言いたい所なのですが……土日はどちらも一日規模の用事が入ってまして、明明後日とかその辺になってしまうかもしれません、ご了承ください。


 

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