暗夜航路・その2

次は、ゆりこたちのその後人生についてお話しをする。


ところ変わって、今治市松本町の教会の真向かいにある一戸建ての家にて…


家は、けんちゃんと嫁はん夫婦の家族の家である。


けんちゃんは、4年前に嫁はん・田布施律世(42歳)と結婚したので、苗字を『布師田』から『田布施』に変更した。


2人はダイキの従業員同士であった。


おせっかいやきの女性従業員さんからクドクド小言を言われたけん、仕方なく結婚した夫婦である。


その当時、律世は前の夫と離婚したあと働きながら2人の息子の育児をしていたシングルマザーであった。


けんちゃんと出会った時、律世は胎内に3人目の子どもがいた。


3人目の子どものテテオヤは、チャラ男(律世が利用していたテレクラで知り合ったあれだけのカンケー)である。


3人目の子は、けんちゃんと律世が入籍する前日に生まれた。


けんちゃんは、おせっかいやきの女性従業員さんから『テテオヤがいてへん子はかわいそうと思わんのかしら!!』から命令された形で結婚したけん、損したと思っている。


時は、朝7時頃であった。


けんちゃんは、律世と次男・とものり(中1)と三男・かつのり(4歳)を車に乗せたあと、家から出発した。


長男(16歳)は、けんちゃんから『自衛隊へ行け!!』と強要されたことに腹を立てて家から出て行ったのでいない…


長男は、横須賀の陸自の高等工科学校に進学した。


卒業後は、防衛医科大学へ進学して軍医になると決意した。


話は変わって…


けんちゃんは、ダイキをやめたあと東鳥生町にあるショッケン(食品メーカー)の製造工場に転職した。


律世は、喜田村のダイキでパート従業員を続けている。


家を出たあと、けんちゃんは喜田村のダイキの店舗の駐車場へ車で向かった。


ところ変わって、ダイキの駐車場の前にて…


けんちゃんの家族たちが乗っている車が到着した。


朝8時10分頃、スクールバスのステッカーが貼っているワゴン車が到着した。


けんちゃんは、とものりとかつのりを引率の人に預けた。


とものりとかつのりは、事情があるので特別支援学校に通っている。


スクールバスが出発したあと律世はダイキの店舗へ、けんちゃんはショッケンの工場へ向かった。


朝8時半から40分の間にショッケンの工場についたけんちゃんは、アタフタとした様子でタイムカードを押して、みづくろいをする。


朝礼の時、従業員さんたちが『目標がどーのこーの…』と言うて、工場長が生ぬるい声でお知らせがどーのこーのと言うたり、シャホーを配ったりするなどして、シラけた歌詞の社歌をうとおて、ラジオ体操する。


朝礼が終わったら、できあがった製品を段ボールに詰めるだけの繰りかえしのお仕事に取り組む。


お昼は、給料引きで注文した野良犬のエサ同然のクソまずいお弁当を休憩室で食べる。


毎日がそななことの繰り返しだ。


時は、正午過ぎのことであった。


ところ変わって、工場の休憩室にて…


休憩室に置かれている黄色のキャリーに入っているお弁当を従業員さんたちが次々と取ったあと、空いている席に座って食べようとした。


けんちゃんも、キャリーの中からお弁当を取った。


しかし、ひとくちも食べなかった。


この時、休憩室はきわめて危険な状態であった。


8人の未婚の男性従業員さんたちが突然ブチキレを起こした。


原因は、朝礼で渡されたシャホーにあった。


「シャホーのご結婚おめでとうの欄はホンマにイラつくわ!!」

「ホンマや!!」

「ショッケンは社内恋愛推進会社といよるけど、それはキューデン(本社オフィスが宮殿なので、そのように呼んでる)だけであって、セーゾーはアカン言うていよんや!!」

「ああ、その通りや!!」

「シャホーの結婚おめでとうの欄は、セーゾーに対するイビツないじめだ!!」

「せや!!ガマンならん!!」


彼らは、シャホーに載ってるショッケンの従業員さんの社内恋愛で結婚したカップルさんの結婚おめでとうの欄が気に入らないので、ソートーブチキレていた。


ショッケンは社内恋愛推進会社だと言うけん就職した…


けど、工場長がセーゾーの人間が社内恋愛しよったら納期が遅れるけんするなといよった…


ぼくらは、どうやって結婚したらええねん…


工場長が月曜日の朝礼で今度の日曜日にお見合いイベントしますと言うたけど…


またヘラヘラした顔で『すまん、中止になった…』と言うに決まっとるわ!!


8人の従業員さんたちは、より激しい怒りを込めて口々にこう言うた。


「キューデンのやつらはええのぉ~」

「せやせや!!」

「近くにオナゴがたーんといてはるけんええのぉ~」

「勤務時間にフォトロケがあったら、休ませてもらえるけんええのぉ~」

「それも職場の敷地つこてしよるけん、ますますはぐいたらしいわ!!」

「上のモンは、勤務中は仕事しろとセーゾーにはやかんしく言うといて、キューデンの人間をおんまく甘やかしとるわ!!」

「ホンマにこらえへん!!」

「社内恋愛推進会社だから、勤務中に従業員同士がイチャイチャしよっても、上のモンはなーんも言わへん!!」

「職場のトイレで従業員同士がやらしいことをしよっても、上のモンはなーんも言わへん!!」

「ああ、ガマンならん!!」

「オイおまえら、明後日の日曜日に工場長がタオル美術館へ行くといよったな…アレ行ったらだまされるぞ!!」

「ああ、間違いあらへん!!」

「工場長の言うことなんぞ口先だけや!!」

「お見合いイベントだと言うといて、社内恋愛のカップルの挙式をオレたちにみせるに決まっとるわ!!」

「工場長はイメージトレーニングしろと言うに決まっとるわ!!」

「ああ、まったくその通りだ!!」

「結婚相手が近くにいてへんのに、どうやって結婚するねん!?」

「ムリに決まっとるわ!!」

「ふざけんなよ!!なにが『今治で家族を作ろう』だが…」

「ああ、その通りだ!!」

「オイ、むしゃくしゃしとるけん打ちに行こか!?」

「せやせや!!お給料のテンビキ貯金なんぞいらんけんマージャンでスッテンテンしたろ!!」

「ホンマや!!」

「もう嫁はんなんかいらんわ!!」

「ああ、オレもカノジョいらんわ!!」

「やってられるか、こななクソッタレセーゾーなんか!!」


彼らは、お弁当をすてて休憩室を出たあと、勝手に工場を出て、港大橋の付近の交差点にあるマージャン店へ遊びに行った。


彼らは、テンビキ貯金がスッテンテンになるまでカケマージャンをしていたに違いあらへん。


けんちゃんは、お弁当をすてて休憩室を出たあと、自販機のコーナーへ歩いて行った。


さて、その頃であった。


またところ変わって、中浜町にある伊予銀行の支店にて…


施設に出戻ったゆりこは、小学校時代の恩師夫婦のコネで伊予銀行の1年契約の行員で再就職した。


ゆりこは、帳簿に記載されている金額が正しいかどうかを調べる仕事をしていた。


しかし、この日はソートーイラついとった。


そんな時であったけど、支店長がヘラヘラしたツラでゆりこのもとへ来た。


「(ヘラヘラ笑いながら言う)鳥居くん…ちょっとかまんかなぁ~」

「ゆりこ!!手がいっぱいなんだけど!!」

「(ヘラヘラ笑いながら言う)ああ、すまんかったねぇ~」

「支店長!!」

「ああ、そないに怒らんといてーなぁ~」

「話ならあとにしてください!!」


ゆりこに怒鳴られた支店長は、ヘラヘラ笑いながら言うた。


「すまんねぇ~せやけど、今じゃないと話ができんねん~この通り~」


支店長は、ヘラヘラ笑いながら両手を合わせて『話きいて~』と言うた。


ゆりこは『イヤ!!あとにして!!』と言うて拒否した。


ゆりこから拒否された支店長は、女々しい声で言うた。


「あとにしてあとにしてって、ほな、いつ話したらええねん~」

「支店長!!大の男がメソメソメソメソメソメソメソメソメソメソ泣かんといてや!!なんやねんあんたは一体!!ゆりこ!!メソメソ泣き虫で三角お顔の男の子は大きらいなのよ!!」

「ワシのどこが三角お顔ぞぉ~」

「はぐいたらしいわねザメザメ支店長!!」


支店長は、より女々しい声でゆりこに言うた。


「あのなぁ~ワシは急いどんぞ…(松山の)本店の人がはよせぇはよせぇいよんぞ~」

「本店がどないした言うねん…本店がどないした言うねんといよんのに聞こえてへんの!?」

「(ますます女々しい声で)ワシは本店の人から大事なことを頼まれているんだよ…」

「そういうことはあとにしてといよるでしょ!!」

「今じゃないとできんねん~」

「はぐいたらしいわねオカマ支店長!!あんたはゆりこの仕事のてぇとめたけん、はりまわしたろかとおもとったんよ!!」

「はりまわさんといてくれぇ~」


ゆりこにいて回されそうになった支店長は、ものすごく困った声で言うた。


「あのなぁ~ワシは明後日の日曜日の鳥居くんの予定があるかどうかを聞いとんや…」

「明後日のゆりこの予定と本店がどう言うカンケーがあるのよ!?」

「カンケーあるから言うてんねん~」

「ゆりこの明後日の予定聞いて、どないするつもり!?」

「せやけん、本店がはよせぇはよせぇといよるねん~」

「せやけん、明後日の日曜日になにがあるのか言うてよ!!」


支店長は、女々しい声でゆりこに日曜日のことを言うた。


「あのなぁ~、明後日の日曜日はタオル美術館へ行くんぞぉ~」


ゆりこは、冷めた声で言うた。


「タオル美術館へ何しに行くのよ…単にラーメン食べに行くだけでしょ…アホみたい…」


ゆりこから冷めた声で言われた支店長は、ものすごく女々しい声で言うた。


「違うねん…ショッケンの工場の…」

「イヤ!!拒否するわ!!」

「困るよぉ~…本店に申し込んだんぞ!!」

「イヤと言うたらイヤ!!」

「なんでそないに拒否するんぞぉ~」

「ゆりこ!!結婚なんかせえへん!!」

「結婚せえなんて言うてへんねん~」


(ドカッ!!)


「ああああああああ!!」


ブチキレを起こしたゆりこは、右足で支店長のまたくらをけつった。


「ゆりこは女ひとりで生きると訣意(けつい)したのよ!!ほやけん、男いらん!!…なにが『今治で家族を作ろう』よ…今治で結婚したら、ゆりこはズタズタに壊れてしまうわよ!!」


(ドカッ!!)


ゆりこは、さらに激しい怒りを込めて支店長の背中を右足でけとばして倒した。


その後、ゆりこは赤茶色のバッグを持って出てゆく前に、課長さんに言うた。


「ゆりこ、マリン(早朝喫茶)へ行ってくるけん、今日はチョッキするけん…ほな…」


ゆりこは、課長さんにヘーゼンとした声で言うたあと、勝手に職場から出ていった。


課長さんは、ボーゼンとした表情でゆりこの後ろ姿をみつめていた。


他の女子行員たちも、ゆりこに同調して勝手に職場を出ていった。


ゆりこにけられた支店長は、その場に倒れたまま女子行員たちに次々と背中をふまれてゆく…


今のゆりこの気持ちでは…


結婚は、猫に小判だと思う…

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