ランナウェイ

時は流れて…


11月8日の昼過ぎであった。


ところ変わって、フランス・ブルゴーニュのポムじいさんが運営するワイナリー農園にて…


翌週16日はボジョレーヌーボーの解禁日に向けて、園内は準備などであわただしく動いていた。


ポムじいさんと長男夫婦とゆみさんの4人は、樽が保管されている倉庫にいた。


1900年以前から寝かせているワインを解禁すると決めたポムじいさんは、どの年代のワインを解禁するかを考えている。


「うむ、この年代のワインを解禁させよう。」


ポムじいさんは、1850~1868年(日本では江戸時代末期)から寝かせていたワインを2000年のボジョレーヌーボーにすると言うた。


その期間のぶどうの収穫量は、平年の10倍の量であった。


甘味がのった高品質のぶどうで作ったヴィンテージワインで、超高額が期待できるとポムじいさんは言うた。


また時は流れて、11月11日のことであった。


この日は、第一次世界大戦休戦記念日・アメリカ合衆国の退役軍人の日など…海外の祝日にあたる日である。


ポムじいさんは、孫3人(長男夫婦の息子さん・上から小4・小2・5歳の男の子)とゆみさんと一緒に高松市屋島中町のなみさんが働いている理容院へ行った。


時は、朝9時頃であった。


店内にて…


ポムじいさんは、なみさんのスカルプケアを受けている。


あらたさん夫婦と女性従業員さんは、ポムじいさんの3人のお孫さんの散髪をしている。


ユーセンのスピーカーから、シャネルズの歌で『ランナウェイ』が流れていた。


なみさんは、スカルプケアを受けているポムじいさんに声をかけた。


「ポムじいさん、頭皮かたくなっとるね…ゆっくりケアするね。」

「お~、気持ちええのぉ~」


ポムじいさんのスカルプケアのあと、なみさんはアイロンパーマの準備に取りかかった。


アイロンパーマのタイマーセットが終わった頃であった。


ゆりこが悲しげな表情で店にやって来た。


ゆりこは、白のブラウスの上からラベンダーのカーディガンをはおって、下はグレーのヒョウ柄のスカート姿であった。


ゆりこは、悲しげな表情でなみさんに声をかけた。


「なみさん。」

「あら、ゆりこちゃん…どないしたんで?」

「ちょっと…困りごとがあって…」


ポムじいさんは、なみさんに声をかけた。


「なみさん。」

「なあに?」

「あのコは、なみさんの知り合いなのか?」

「せや…なみと同じ施設で暮らしていた女の子よ…なみより15下…よーくんと同い年のコよ。」

「ムッシュイワマツの幼なじみのコか…」

「せや…ゆりこちゃん、困りごとってなんやねん?」


なみさんから聞かれたゆりこは、くすんくすんと泣き出した。


「くすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすん…」


なみさんは、困った声でゆりこに言うた。


「ゆりこちゃん、泣きよったら分からんねん…わけを話してよぉ~」

「くすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすん…くすんくすんくすんくすんくすんくすん…あのね…くすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすん…ゆりこ…できたの…」

「できたって…」

「胎内に…赤ちゃんがいるの…」

「赤ちゃん…」

「うん。」


ゆりこは、胎内にドーセーしていたカレとの間に赤ちゃんがいることをなみさんに伝えた。


それを聞いたなみさんは、どうして大事なことを言わなかったのかとゆりこに怒った。


「ゆりこちゃん!!なんで大事なことを相談せえへんかったん!!」

「くすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすん…くすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすん…」

「ゆりこちゃん!!ビービー泣きよる場合じゃないわよ!!」

「だって…だって…」

「ゆりこちゃん!!ゆりこちゃんの胎内にいる赤ちゃんのテテオヤはだれやねん!?」

「くすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすん…」


なみさんは、ものすごく困った声で言うた。


「困ったわねぇ…ゆりこちゃん…あんたねぇ、ところかまわずに男をつまみ食いしよったけんそなな身体になったんでしょ…ゆりこちゃん!!」

「くすんくすんくすんくすんくすんくすん…くすんくすんくすんくすんくすんくすん…」


ゆりこは、徳島のホストクラブの男とドーセーしていたことを話した上で、胎内にいる赤ちゃんはホストの子だとなみさんに言うた。


なみさんは、あきれ声で言うた。


「ゆりこちゃんはアカンねぇ~…ゆりこちゃんは恋人を作って結婚することに向いてへん…ううん、結婚に向こうと言う姿勢がないけんアカンわ…」


ゆりこは、両手で顔を隠してワーッと泣きながら店から出て行った。


アイロンパーマを受けているポムじいさんは、あきれ声で言うた。


「なさけない…ホンマになさけないのぉ~」


なみさんは、心配げな表情で店の出入り口を見つめていた。


その頃であった。


けんちゃんと一緒に行動していたてつろうは、再びホームシックになった。


けんちゃんは、てつろうのメンドーをこれ以上みることができなくなったので、尾鷲市までの帰りの電車賃を与えたあと、てつろうをすててどこかへ逃げた。

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