3「発見」


   3


 ぼくは、学校が終わってから、今日も今日とてオレンジジュースを頼んだ。

 もう正確には数えていないが、これでこの店は七日目くらいになるだろう。百均のオレンジジュースのパックを開けていそうな喫茶店だ。

 そして、その八日目ごろ……紙カバーをかけたラノベを読みながらジュースをちびちびと飲んでいる最中、後ろから店員に声をかけられた。

「ケーキの新メニューの試食はいかがですか」

「……あ」

 かの女だった。クリーム色髪バージョンの。

 パシェニャは、生まれてから一度も切っていないかのように伸ばされたなめらかな髪――吹いてもいない風に乗るように爽やかに揺れる――と、透き通るような肌と、眠たげでかつ意思の強そうな紺碧の虹彩をもっている。

 かの女はなぜか給仕服ではなく、ゲーセンにいた時のような灰色のコートを着ていた。

「ひさしぶりね」

「……」

「どうしたの」

「……まさか会えるとは思ってなかった」

「なにそれ」

「逃げきられるんじゃないかと」

「まあ、たしかに逃げてはいたわ。よくここ来たわね」

「地区内の喫茶店はほとんど全部まわるつもりだった。一軒につき七日程度。ここが五軒目」

「ローラー作戦ね。ストーカー気質が過ぎて正直引くわ」

「まあそう言われても仕方ないとは覚悟してた。そうだ、ファイナルファイトと寿司ネタの共通点を三文字でいうと?」

「EGWね」

 即答するパシェニャ。

「マジで当たった。信じられない。そういや、もしかしたら給仕服姿が見られるかもと思ったんだけど」

「変装も早着替えも得意よ……ところでアキラ、わたしが今、何に所属しているかは知っているの?」

「よく考えたら『サモルグ』を脱退したことぐらいしか知らない」

「今は『ギルド』という名前の組合にいるわ」(注・ややこしいが、『ギルド』という名のギルド、という意味である)

「ということは、いわゆる裏稼業はやめていないのか」

「そういうこと」

 とパシェニャは声を低くして、

「実はこの喫茶店のスタッフルームが『ギルド』の部屋のうちの一つだったりするのよ」

「ということは」

 ぼくはカウンターのところを見て、

「あの存在感のある赤い服の小さいメイドさんも関係者?」

「師匠よ」

「な……なるほど?」

「……」

「師匠って、暗殺術とかの……」

「ぷ、あははは! 信じたの?」

「いや、信じたと言うより、なぜか、間違っていないように聞こえる」

 ぼくとパシェニャはそんなふうに笑顔をかわした。


 しかしここではまだ物語は終わらない。ぼくは巻き込まれる運命にあるのだ。

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