第36話


「おい、卑怯だぞ! 引きこもってないで出てこ…がっ!?」


「そうよ、みんな一斉に撃てば青チームは脱落するわ! …きゃあ!?」


ジルたちを袋叩きにしようと言う人を次々にアイシャがリタイアさせていく。

カレンとエリンは二人でペアを組んで落とせそうな人から落としていき、アイシャが俺らの防衛という作戦を選んだようだ。


「いやあ、爽快だなあ。…キャロル、結界はまだ保ちそう?」


「えと、このくらいの攻撃だったら何もしなくても今日中は保ちます」


「やるね。おっと、また目の前で倒れた哀れな人が…」


ジルがアイシャの方に目を向けると、にこりと笑って返された。貸しにしておいてあげるわ、ということなんだろうか。


それにしてもみんな乱戦なんだから落ち着くまで、敵情視察というか、情報収集に努めればいいのに逃げる人は結界も張らずドッジボールのように逃げているし、当てる側も躍起になって当てようとしている。


逃げる側で残っているのが、赤チームは三人、青チームは四人、黄チームが二人で、緑チームも二人の計十一人。


もともと赤チームが八人、青チームが四人、黄チームが赤と同じで八人、緑チームが七人の計二十七人いたことを考えると、前半戦が終わったってところだな。


気付いた人もいると思うけど、今回の試験のチーム分けは俺らのチーム以外全員十人ずついるというかなりのハンデがある。

多少の人数差に抗議するよりも、顔見知りと組ませてくれた感謝の方が強いから何も言わないし言えないけどね。


ポイントとしては、赤が二、青が六、黄が三、そして緑が五ポイントとなっている。俺たち青チームがリードしてると言っても、ほとんど緑と一緒だ。


そして緑チームは残った二人が俺たちと同じように殻にこもっているのと、射手の実力が高いためか少しずつポイントが追いついてきている。


「それにしても、ガジは良くあそこにいて当たらないよね。掠るくらいだったら俺もくらいそうなのに」


「そうですね…死角から撃たれても反応しているようですし、不思議です」


「何かしらのカラクリがあるんだろうけど…なんだろう」


「あとで聞いたら教えてくれたりしますかね…?」


「いやあ、教えてくれないよ。俺は後日ガジと立ち合うことになってるし、きっと秘密にするだろうね」


「え!? 私たちの知らないところでそんなことに……仲、あんまり良くないんですか?」


「悪くはないと思うけど、なんというか…けじめみたいなもんなんじゃないかなあ。二次試験でみんながふらふらの時に俺がこそっと倒したもんだから、俺の実力が知りたいって言ってたよ」


「そうなんですね…それ、みんなで見ててもいいですか?」


「俺は気にしないよ。でもガジがどうだかはわからないな…まあ、あとで聞いてみるよ」


「よろしくお願いします」


ジルは聞いてみる、というところであることを思い出した。

あのセンコウという男は聞かれないと答えない代わりに、ヒントのようなことを言う。

何か気になっているな、と思っていたけれどそれが何かを思い出した。


「あの、試験官の人ー!」


ジルがキャロルの結界の中からセンコウに話しかける。彼は眉間にシワを寄せてこちらを向いた。

何も言わないけれど、とりあえず聞こえてはいるようだ。


「質問なんですけど、敵味方関係なく当てられたらアウトって、射手の人もそうなんですか?」


ジルの質問にセンコウはため息をついた。

彼からしたら自分の言ったことがルールの全てであり、それ以外の受け取り方は自由なのだ。それがルールに違反していたら止めるし、そうでなければ止めない。


センコウは一言、「はい」とだけ口にした。


その瞬間、アイシャの近くにいた黄チームの射手と、緑チームの近くにいた赤チームの射手、そしてエリンをかばったカレンがアウトになった。


これで赤チームと黄チームはポイントを稼げずにリタイア。残りの青と緑の戦いになる。


ここまででポイントは赤が三ポイント、青が七ポイント、黄が三ポイントで、緑が七ポイント。

ポイントとしては同点だけれど、チームの的の全員がまだ残っている俺たちがやや不利だ。


意外とまだ残っているガジがアウトになったと仮定すると、俺たち三人のうち誰かがアウトになった時点で勝ちはなくなる。


「なあキャロル、あの緑チームの射手の人の攻撃、どのくらいまでだったら防げる?」


「あの灰色の髪の人ですよね? 見てた限りだと当てる用の弾をばら撒いていた感じなのでどの程度の強さなのかはわからないですけど…剛魔の攻撃一発分くらいは耐えれると思います」


「そっか、じゃああとはこっちの射手の二人に任せるしかないか…?」


多少妨害できるとはいえど、掠るのも無しで手助けはしにくい。


「二人とも、頑張ってくれよ…」


ふああと欠伸をするラシュー、手を合わせて祈るようなキャロル、そしてジルは静かにアイシャとエリンを見つめていた。





「ごめん、カレン…」


「いいんだよ、それより、あとちょっとで勝てそうなんだから頑張ってよね!」


「…うん!」


エリンをかばってアウトになってしまったカレンは素早く観客席に退いた。

その顔は悔しさに歪んでいたものの、彼女自身はこれが今の自分かと心のどこかで淡々と評価していた。


もっと強くなりたい。


それこそ、二次試験のときのジルみたいに。

あのとき薄っすらと意識が戻っていたカレンは、ジルが剛魔を両断したのを見ていた。

ガジと似ている彼女がガジのようにジルに詰め寄らなかったのは、ジルの力の一端を実際に目にしていたからに他ならない。


「…これからだよね」


ぐっと手を強く握るカレン。

今は切り替えて、チームの応援をしよう。

溢れそうになる涙をこらえて、カレンは顔を上げた。


「みんな頑張って!!」

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