第34話


さて、時は少し流れて最終試験が行われる日。

大学校には特に入学式などはなく、通う生徒たちは自分たちが学年でどのくらいの実力なのかを知らされることはない。


それというのも、この最終試験を経験すれば自ずと自分の立ち位置がわかるからだ。何かに優れた個人は目立つようになっており、そうでない人は特に目立つことはない。


目立たなかった人は、そこでやっと自分がここでは下から数えた方が早い実力なのだと気づくのだ。

そして試験という名目で行っている以上そこには明確に順位が付けられる。


学校側は受験者たちに勝ち負けは関係ないと言いつつ、そこに順位を付ける。

他人が自分より優れている様を目の当たりにしてそこから腐るか努力して這い上がるかを見るのだ。

這い上がらなければ自分の受けることのできる授業の幅やレベルは上がらないという悪循環が生まれる。


努力する者は報われる。ではなく、報われるまで努力する。そこまでする覚悟がなければここで戦ってはいけないだろう。


と、言ってはいるがここに緊張感のない若者が一人。


「俺のチームは青か」


あくびを噛み殺しつつ呟くジル。

貼り出された紙には赤、青、黄、緑と書いてあり、自分の名前を青のチームで見つけた。


「あら、私も青ね」


「私も! 偶然にしては珍しいよね!」


「そうだなあ」


ジルは偶然ではないだろうことを察していた。

その理由は大きく二つある。

一つ目は、公ではないにしろ自分がアイシャの護衛という名目でここにいる以上必然的に距離は近くに置いておかなければならないということ。


もう一つは、自分がエリンの護衛のようなものも引き受けてしまっているという事実からだ。


前者は王宮が手を回して、後者はエングラム辺境伯が手を回したんだろう。


「他の人の名前は……お?」


見覚えのある名前ばかり。何ならつい最近一緒に行動した。


「ジル! また同じなのね!」


「ジルさん、お久しぶりです。アイシャ様も、お元気そうでなによりです」


声をかけて来たのは二次試験で一緒の班だったカレンとキャロルだった。

嫌そうな顔ではあるが、その後ろにガジの姿も見える。


「キャロラインも元気そうね」


こちらは偶然同じ班になって嬉しいんだろう。アイシャとキャロルは仲良さげに雑談を始めた。

ここだけ社交界のようだな。


はじめましてってことでエリンは一歩引いて見ていたようだけど、カレンから話しかけており、初対面の探り合いのようになりつつもいい感じの雰囲気だ。

カレンはガジ相手じゃなければ普通にできるからな。どうしてあそこまで喧嘩腰になるのかはさっぱりわからないけど。


取り残された男性陣は男性陣でまとまろうとガジに歩み寄るジル。


「お前らが一緒の班なのか?」


「…みてえだな。それよりジル、俺ァ二次試験の最後。あの借りは忘れちゃいねえぜ」


「借り? 何の?」


「俺が気ぃ失ってる間に全部が終わってたんだ。お前が何かやったんだろ」


そういえば忘れていたけれど、俺以外の人は医務室送りになっていたような…。完全に忘れていた。


「何かってほどのことじゃないけど…まあ、普通に戦ったかな」


「けっ! 余裕そうな顔しやがって。……今度俺に付き合えよ。実際に戦って自分の目で見ねえと納得できねえからな」


「わかったよ。それで、名簿を見る限りあと一人いるはずだけど、ガジは何か知らないか?」


「あ? それだったら、すぐそこにいるだろうよ」


すぐそこ? ガジが顎をしゃくって指した場所はさほど遠くなく、すぐ近くに俺とガジよりも背の低いフードを被った人物の姿があった。


「えっと、君も青チームの人?」


と、声をかけるとビクッとして頷いた。

何でもいいけど、頷いてもフードが全然ずれないのすごいな。

名簿の名前を確認する。


「ラシュー・ドヴルゴス…だよね? 俺はジライアス・ハウンド。呼ぶ時はジルでいいよ。それでこっちの無愛想っぽいのがガジ・フェンネル」


「無愛想は余計だ。…まあ、よろしくな」


「ラシュー…です。よろしくお願いします」


フードを外すことがなかったので顔はわからないけど、名簿を見て男だということはわかる。

男が三人に女が四人の七人か。他の班を見た感じ男の方が多いんだけど…俺のせいだろうなあ。すみません、他の班の男の方。


「みなさんそろそろ顔合わせも終わった頃合いでしょう。それではこれから最終試験を始めさせていただきます。私は今回の試験の担当になりましたセンコウと申します。よろしくお願いします」


大学校の闘技場に響く硬い声。

あの人、また担当してるのか。効率重視の人…だけど賄賂とかに負けそうにない顔してるもんなあ。公平そうな人ではあるよな。


「早速ですがまずはルールの説明をさせていただきます。


今回の試験は見てわかります通り、赤・青・黄・緑の四つのチームに分かれて行われます。

まず私がくじを引かせていただき、対戦内容を決めさせていただきます。まあ、この時点で選手を出していただいても構いませんが、それはチームの自由です。


…それから各チームはそれぞれ選手を出し合っていただき、対戦内容の説明。そして対戦開始という流れになります。


対戦は全部で四つあり、各チームの選手は少なくとも一つ以上参加していなければなりません。

試験を終えてもし参加していない人がいた場合、そのチームは失格。最低評価とさせていただきます。


さて、これで概要は分かりましたね。それではくじを引かせていただきます」


相変わらずこのセンコウという人は質問を聞かない人だ。

選手が少なくとも一つ以上参加してなきゃいけないってことは、前も言っていたけど一人の選手が何回出てもいいわけだ。


流石に全部出てたら疲れるしそんな人はいないと思うけど…多分アピールしたいならご自由にっていうことなんだろうな。


センコウは、手元にあるボックスに手を入れて悩む仕草を一切見せずに一枚の紙を取り出す。


「それでは、第一戦の対戦内容は…的当てです。各チーム選手を出してください」

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