第13話 自己紹介

「結局また喧嘩かよ。これから一緒に外に行こうってのに……」髭の男がため息混じりに言った。「お前ら何のために集まったんだ?」

 男の言葉にその場の全員が黙った。

 沈黙を打ち破ったのは歌乃花だった。

「申し訳ありません。話を進めましょう」

「ちょっと!私の話はまだ終わってないわよ!」美智花が叫んだ。

「黙れ」久遠が再び刀を構える。

「アンタには関係ないでしょ!?」


 そう言った美智花の肩を背後から巨漢の男が掴んだ。

「はっはっはっ。元気なのはいいが少し静かにしてもらいたいな」

「……っ!」

 美智花はそれを振り解こうとするが、男の丸太のような腕はビクともしなかった。


 美智花が大人しくなったのを確認して、歌乃花が話し始めた。

「ここにいる面々がこの度の遠征隊の参加者です。既にお互いを知ってる方もいるとは思いますが改めて自己紹介といきましょう」

「では、私から」

 久遠が刀を鞘に納めながら前に出た。

「久遠だ。白夜大河様の近衛兵を務めている。今回の遠征では副隊長の座を与えられた。隊である以上、上の者の命令は絶対だ。背く者は容赦なく斬り捨てる。以上だ」


「久遠、ありがとう。では次は……」歌乃花が髭の男に視線を送った。

 髭の男は頷くと、白髪混じりの髪を掻き上げた。

「あ〜、俺の名前は石動いするぎ。一応、学者だ。この国の歴史や、土地、なんなら悪魔の生態についてまで、幅広調べてる。よろしくな……」

 男の発言に、来栖は耳を疑った。

 学者といえば、都心に住む金持ちのイメージがあったが、この石動という男は浮浪者の間違いでは無いかと思うほど、見すぼらしい風貌をしていた。

 来栖の訝しげな視線に気づいたのか石動が付け加えるように話した。

「正確には元だがな。色々調べてるうちにお偉いさん方に目をつけられてな。白夜大河に拾われて今ここにいるってわけだ。やっぱり、人を悪魔に変える研究はまずかったか……」


「今、なんて言った……!?」来栖は思わず訊き返した。

 人を悪魔に変える研究だと……!?まさか、十年前、自分と妹が悪魔に襲われた事に何か関係があるのではないだろうか。

「おっと、口が滑った……。気にしないでくれ、もう十年以上前の話だ。それに、仮説を立てただけで、実際の実験はしてない。その前に当局に連行されたからなぁ……」

 昔を懐かしむような口ぶりだった。


「本当に実験はしてないんだな?」

「あぁ、そうだけど?」

 石動からは嘘を付いてる素ぶりを感じられなかった。しかし、何故そんな実験をしていたのだろうか。


「なぁ、もういいか?」

 痺れを切らしたのか、黒髪の女が口を開いた。

与羅那よらなだ。アタシは人だろうが悪魔だろうがぶっとばせればそれでいい。精々、アタシのボムに巻き込まれないよう気をつけな」


 ボム……さっきの手投弾がこの女の獲物のようだ。しかし、先程の手投弾はその形状も威力も警備隊員に支給される物とは異なっていた。

 それに、火薬の製造は国で取り締まられているため、そう簡単に手に入るものでは無いはずだ。


「この女は過去に、火薬取締法違反および違法火器の所持、更には傷害の前科がある」

 来栖の疑問に答えるように久遠が言った。

「くくく……」与羅那が不適な笑みを浮かべた。

「何か不振な動きがあれば直ぐに報告しろ、処分する」


「はっはっは!仲良くいこうじゃないか!俺の名前はつづみ!見ての通り体力には自信があるぞ!」

 美智花を取り押さえた巨漢の男が名乗った。

 来栖は改めてその巨体を凝視した。これほど大きな人間を見たのは初めてだった。一体何を食べたらそんなに大きくなれるのだろうか。


「でかい奴やのー。何食ったらそんなデカなんねん」佐伯が来栖が思っていた事をそのまま口に出した。

「ん?ああ、それは--」

「人だ」鼓の言葉を遮るように久遠が言った。

「あ……?なんやて……?」

「こいつは幼少期から人の死体を食べてきた。天使様によって魂が天に召された後、こいつの村では遺体を保存する習慣があったが、こいつの一家はその遺体を食べて飢えを凌いでいたという訳だ」

「お陰でこんなに立派に育ったぞ。はっはっは」鼓が笑った。


 先ほどまではただの明るい男だと思っていたが、その話を聞いた後ではその笑い声がとても恐ろしく感じた。

「ちょ、ちょっと!離して!」

 美智花も慌てて、鼓の手を振りほどいた。

「おいおい、そう怖がらないでくれ。今はもうそんな事はしてないし、何より俺の家ではそれが当たり前だったんだ。両親が捕まるまでそれが悪事だと気づかなかっただけだ!はっはっはー!」


 鼓の発言に、その場が静まり返った。

「ふむ……引かせてしまったかぁ!すまないな!次は君の番だぞ!」

 鼓が背後に隠れる少年の肩を叩いた。


「う、……僕は三日月みかづき

 栗色の髪の小柄な少年が怯えながら名乗った。

「まだ、子供じゃない!」その様子に美智花が声を上げた。「この子も遠征に連れてくって言うの!?」

「ひっ……!」その声に驚いた三日月が再び鼓の背後に身を隠した。


「騙されるな」久遠が言った。「そいつには傷害の前科がある。それも若い女性ばかりな。被害にあった者のうち三人は、その後生存の見込み無しとして天使様に処された。実質、三人殺しているのと同じだ」

「うっそ……!」美智花が驚く。

「ぼ、僕は誰も殺してない!」鼓の背後から三日月が叫んだ。

「そう言ってるけど……?」

「そいつには虚言癖がある。基本的にそいつの言葉に耳を貸すな」

「嘘なんかついてない!アイツがやったんだ……僕じゃない……!」

 久遠はそんな三日月の言葉を無視して、来栖達の方を見た。

「後は貴様らだ」


「俺は佐伯。仲ようしてや」佐伯はそう言うが、その目は久遠を睨みつけたままだった。


 そして、遂に来栖の番がやって来た。全員の視線が集まる。

「あ……えっと……」

 来栖はメンバーが揃ったら一言ビシッと言ってやろうと考えていたのだが、全員の自己紹介を聞いて完全に萎縮していた。

 --何だこいつら、やばい奴ばかりじゃねぇか!

 来栖と同じような志しを持った人間が集まると思っていたのに、蓋を開ければ死んでも構わない様な犯罪者ばかりだ。


「あ〜?本当にこいつが悪魔を倒せるってのかい?」

 口籠った来栖に与羅那が訝しげな視線を送る。

「どうした?緊張してるのか?悪魔と戦ったのだろう?その度胸はどうした?」鼓が訊ねた。

 どうやら全員、来栖の事はある程度知っているようだ。


「ほら、しゃきっとしいや」バン、と佐伯が背中を叩いた。

 来栖は息を吸うと、覚悟を決めてはっきりと言った。

「来栖だ。俺は悪魔を倒して、天使なんかに頼らなくても大丈夫って事を必ず証明してやる」

 しかし、それを聞いた全員がぽかんとした、呆気に取られた表情を浮かべた。

 その様子に来栖は急に恥ずかしくなった。

「だから……その、よろしく頼む……」


「あ〜?なんだそりゃ」与羅那が言った。

「な、なんだよ、文句あるのかよ。お前等も結局、そんなことできるはずが無いと思ってるんだろ……!?」

 そこで、背後から頭を叩かれた。

「アホ。何言うてんねん」佐伯が言った。「個々の事情はあれど、ここに集まった奴らは来栖、お前の活躍を聞いたからここにおるんや。なのにお前が今更、当たり前の事を言うから、みんな肩透かし食らっとんねん」

「え……?」

 --そうなのか……?てっきり呆れられているのかと……。


「はっはっは!佐伯とやらの言う通りだ!俺達は来栖!お前の活躍に期待している!」鼓が言った。

「つーか、話に聞いてたのと随分違うじゃねぇの。もっとイカれた戦闘狂だと思ったのによぉ」与羅奈が訊ねた。「本当にコイツであってんのかぁ?」

「……この人、強いよ……さっきの見てなかったの?」三日月が鼓の背後に隠れながら小声で話した。

「あぁ?聞こえねぇよ!はっきり喋んな!」

 与羅奈が怒鳴ると、

「ひっ……!」三日月が短い悲鳴を上げた。


 そこに、パンッ、と手を叩く音が響いた。

「皆さん。少ないですがこれが今回のメンバーです。仲良くしましょうね」歌乃花が言った。

 そして、続けて話始めた。

「ではまず今回の目的について説明します。私達の目的は二つ、一つは外の土地を調査して、資源の眠る土地、人が住むことの出来る土地を見つける事です」

「ちょっと!待ちなさいよ!」美智花が口を挟んだ。「それが目的ならなんで北西部のここがスタート地点なの!?悪魔が少ない南部から調べるべきでしょ!?」


「姉さんが知らないのも無理はないけど、南には何も無いのよ。ただ永遠と荒野が続き、その先には海があるの」

「なんでそんな事が分かるの?」

「過去に南に行った人達がいるからよ。私の家にもその記録は残ってるわ」


「ほー、俺ら以外も根性のある奴等がおったんやなぁ」佐伯が呟いた。

「それは、どうかしら。彼等は元々追放者だったと記録にはあったわ」

「追放者?」

「昔、行われていた処刑の方法よ」

「あぁ、そう言う事かいな」

 つまり偶々、生き残った者がその話を伝えたという事だろう。


「話を戻しますが、あくまでもその目的は長期的なものです。今回は人数も少ない為、調査できる範囲も限られるでしょう。なので今回の遠征の大きな目的は二つ目、悪魔を倒しその死体を持ち帰る事です」歌乃花が言った。

「その結果、更に多くの者が我々に賛同してくれる事でしょう。そうなれば、土地の調査も格段に進みます」

 一通り話し終えた歌乃花は最後に一言、

「ここまでで、何かご質問は?」と付け加えた。


「じゃあ、悪魔を倒せばすぐ帰るってわけね?」美智花が訊ねた。「仮に倒せなくても直ぐに帰るんでしょ?」

「えぇ、そうですが……」歌乃花が物言いたげな視線を向けた。

「わかった。じゃあ私も行くわ」

「「え!?」」

 美智花の発言に、来栖と歌乃花は驚いた声を上げた。

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