第208話 合獣ダンジョン

 翌日。

 合獣ダンジョンにやってきた俺の視界に飛び込んできたのは、今にもダンジョンへ挑もうとする数組のパーティーだった。


 ここはAランクダンジョンの中でもボスのレベルが30000と難易度が低く、さらに海龍ダンジョンのような特殊ギミックも存在しない。

 そのため、Aランク冒険者の間ではかなりの人気があったりする。

 何でも、基本的に10組以上が常にダンジョン内にいるという話だ。


「最近は鬼塚ダンジョンといい海龍ダンジョンといい、他の冒険者がいない中で攻略するばかりだったから、こういうのはかなり久々だな」


 いずれにせよ、転移する際には周囲に見つからないよう気を付ける必要がある。

 それだけは注意しながら、俺はダンジョンの中に転移するのだった。



「ダンジョン内転移、ダンジョン内転移、ダンジョン内転移」



 ダンジョン内転移を連続で発動し、次々と下の階層に移動していく。

 合獣ダンジョンは全50階層となかなかの深さであり、通常ならどれだけ順調でも半日以上の攻略時間を必要とする。

 そんな中、俺は道中に遭遇してしまった魔物との戦闘などの時間を含めても、たったの計15分で最下層にたどり着くことができた。


 眼前にそびえ立つ巨大なボス部屋の扉を見て、俺は一つ頷く。


「よし、さっそく挑むとするか」

 

 扉を開けて中に入ると、部屋の中心には巨大な獣型の魔物が鎮座していた。

 俺はその魔物に向かって鑑定を発動する。



 ――――――――――――――


【アルス・キマイラ】

 ・討伐推奨レベル:30000

 ・ダンジョンボス:合獣ダンジョン

 ・複数の魔物が組み合わさって生まれた合成魔獣。合成された魔物の種類によって姿と能力が大きく変化する。


 ・本個体の固有能力

 ・バリジスク(魔眼による石化)

 ・ブラッドレオ(強靭な肉体に血液操作)

 ・マッハテイル(超高速な尻尾刃の操作)


 ――――――――――――――



「これはなかなか盛りだくさんだな」


 鑑定結果を見て、俺は思わずそう呟いてしまった。


 アルス・キマイラはダンジョンボスとしては珍しく、登場ごとにその姿を大きく変貌させる。

 そのため幅広い状況に対応できるよう、様々なジョブを揃えたパーティーで挑むのが一般的だ。

 俺みたいにソロで攻略を試みる者はまずいないだろう。


 特に今回は調べてきた中でも、かなり厄介な能力を複数有している個体と遭遇してしまったみたいだが――



『ダンジョン攻略報酬 レベルが120アップしました』



「グ、グォォォオオオオオ」


 ――無名剣ネームレスの一振りによってアルス・キマイラの巨体は両断され、断末魔の声とともに倒れていく。


 俺は無名剣についた血を払いながら、小さく息を吐く。


「まっ、倍以上もレベル差があれば大して関係ないよな」


 何はともあれ、簡単に倒せる敵でよかった。

 俺がアルス・キマイラから魔石を取り出すと、ちょうどのタイミングで転移魔法が発動して地上に帰還する。


 俺はぐっと伸びをした後、改めてダンジョンに視線を向ける。


「さあ、ここからが本番だ」


 そして再び、ダンジョンの周回を開始するのだった。



『ダンジョン攻略報酬 レベルが120アップしました』


『ダンジョン攻略報酬 レベルが120アップしました』


『ダンジョン攻略報酬 レベルが120アップしました』


 ……………………



 最下層まで落ちてボスを倒すだけというシンプルさを懐かしく感じながら、俺はひたすらに攻略を繰り返した。

 その度にアルス・キマイラが別の形態で現れるも、全て一刀で斬り伏せてしまったため、残念ながらどんな姿だったかは覚えていない。

 記念写真でも撮っておくべきだっただろうか。


 最終的には今日1日だけで21周攻略し、2520レベルアップした。

 この調子で踏破に向けて、明日も周回するとしよう。


『レベル:62878→65398』



 ◇◆◇



 しかし翌日。

 再び合獣ダンジョンにやってきた俺だったが……


「ん? なんだ?」


 ダンジョンの前にはなぜか30人近い冒険者たちがいて(複数のパーティーのようだ)、何かを言い争っている場面に出くわすのだった。

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