第204話 VSリヴァイアサン

「ここが海龍ダンジョンの最深部か」


 転移を繰り返すことによって到着したボス部屋は、中心に直径が60メートル近い円形の足場があり、その周囲全てを囲うように巨大な大海原が広がっていた。

 今までのように進むべき道はなく、ここでただ魔物を待ち構えることしかできない。


 そして肝心のボスはというと――


「来たな」


 魔力の歪みを感じた方向へ視線を向けた直後。

 ザパァァァン! と海面が割れていき、巨大な何か・・・・・が顔を覗かせた。


 海面から伸びるように姿を現したのは、陽光に照らされ青色に輝く鱗を持つ巨大な龍だった。

 ゴツゴツとしたフォルムが特徴的なその龍は、金色の双眸そうぼうをギラリとこちらに向けた。


 俺はその魔物に向かって鑑定を使用する。



 ――――――――――――――


【リヴァイアサン】

 ・討伐推奨レベル:60000

 ・ダンジョンボス:海龍ダンジョン


 ――――――――――――――



「海龍リヴァイアサン――アイツがこのダンジョンのボスだ」


 討伐推奨レベルは60000と、これまでイレギュラー状態で戦うことになった魔物たちを除けばもっとも強い。

 とはいえ現在のこちらのレベルは5万に迫ろうとしていることに加え、敵が格上だということもあり無名剣ネームレスの能力を発揮できる。

 そのため、何の苦戦もなく討伐できる相手――というわけではなかった。


「シャァァァアアアアア!」

「っ、きたか!」


 リヴァイアサンが咆哮と共に、猛烈な勢いで水のレーザーを放ってくる。

 それをステップで回避してから敵を見ると、既に奴は海中に沈んでいて姿は見えなかった。


「リヴァイアサンの戦闘スタイルは、その巨体に似合わないヒット&アウェイ。時折、海中から姿を現して攻撃してきたかと思えばすぐ海中に逃げる……って話だったよな、確か」


 これだけでも十分、面倒だと分かる敵。

 さらにここで、俺にとって厄介な特徴があった。


「シャゥッ!」

「ッ、魔奪剣グリード!」


 再びリヴァイアサンが放ってきたレーザーに対し、魔奪剣で対応を試みる。

 これで敵の魔法を奪い、反撃の一手にするつもりだった。


 しかし、その狙いは叶わなかった。

 レーザーは魔奪剣に当たると甲高い音を鳴らし、吸収されることなく明後日の方向に飛んでいく。


 その光景を見て、俺は小さく舌打ちした。


「もともと予想はしていたが、やっぱり魔奪剣では奪えないか……」


 魔奪剣で奪うことができるのは、魔力で生み出された魔法攻撃のみ。

 その点、リヴァイアサンのレーザーは海水を凝縮し解き放つという、原始的な方法で生み出された攻撃のため魔法と認定されなかったのだろう。

 全景支配ピース・ルーラーなら対応可能かもしれないが、あれは継続時間が10秒しかなく、さらにクールタイムも長いため今回使うつもりはない。


「Aランクダンジョンのボスだけあって、なかなか厄介な敵じゃないか」


 事前に調べた情報によるとほとんどの冒険者は、敵が稀に地上に上がってくる際に剣で斬りかかるか、海面から姿を現したタイミングで魔法を撃ってダメージを与えていくらしい。

 それが対リヴァイアサン戦の正攻法とも言えるだろう。



 ――もっとも、俺はそんな常識に囚われたりはしないが。



「シャゥゥゥウウウウウ!!」


 三度みたび、襲い掛かる水のレーザー。

 先の二発が防がれたせいか、規模と威力、それから速度を上げた一撃のようだ。

 このタイミングでは回避も防御も間に合わないだろう――普通なら。


瞬間転移タイム・ゼロ


 リヴァイアサンの出現位置を確認した俺は瞬間転移タイム・ゼロでレーザーを回避した後、そのまま連続転移で一気に接近していく。

 他の冒険者とは違い、転移を持つ俺なら一瞬でこのエリア内のどこにでも仕掛けられる。


「グゥッッッ!?!?!?」


 わずかに遅れて敵が驚愕の反応を見せるが、もう遅い。


「――はあッ!」

「シャァァァッッッ!?」


 勢いそのままに無名剣を全力で振るい、分厚い鱗だけではなく、その奥の胴体をも深く切り裂いた。

 海の上に、リヴァイアサンの深い青色の血が舞う。


 ダメージを浴びたリヴァイアサンはそのまま海中に逃げ込もうとするが、当然そんな簡単に逃がしはしない。


留壁りゅうへき、発動」


 俺は留壁を海面に生み出すと、そこを足場に力強く踏み込むと同時に、無名剣をいったん消してリヴァイアサンの巨体を両手で掴んだ。

 そして――


「っっっらぁぁぁあああああ!!!」


 全身全霊の力で、リヴァイアサンの巨体を海中から引きずり出す。

 さらに、


「――借りるぞ、剛腕の賢者パワフルゴリラ!!!」



 ――――――――――――――


 賢者の意思を継ぎし者

 ・クエスト【賢者の闘争】を特定の条件でクリアし、さらには賢者の意思を継いだ者に与えられる称号。

 ・武器を持たない状態での戦闘時、攻撃力、耐久力、速度の各項目を+60%。


 ――――――――――――――



 称号効果の力も利用し、そのままリヴァイアサンの巨体を頭上に放り投げた。


「ッッッ!?!?!?」


 宙を舞いながら、自分の状況に困惑している様子のリヴァイアサンを見上げながら、俺は再び留壁を発動して海面を覆いつくす。

 これで奴が落ちてきても、海中に逃げ込むことはできない。


自分の住処である海中テリトリーから追い出されたお前にはもう、反撃する手段はないだろう」


 俺は再び無名剣を召喚すると、切っ先をリヴァイアサンに向けながら告げた。



「さあ、蹂躙じゅうりんの時間だ」



 それから数分間、俺による無限連撃がリヴァイアサンを襲い続けた。

 無数の斬撃を浴びたリヴァイアサンは最後まで抗ったが、その抵抗もむなしく――



「ァ、ァァァアアア」



 ――とうとう、断末魔の声を上げながら崩れ落ちていく海の王。

 それと同時に、脳内にシステム音が響き渡る。



『経験値獲得 レベルが532アップしました』

『ダンジョン攻略報酬 レベルが400アップしました』



「無事に討伐完了だな」


 システム音を聞いて戦いが終わったことを確認した俺は、剣に付着した血を振るい落としながらそう呟いた。



 かくして、俺はリヴァイアサンに勝利し――

 再びここから、最速のレベルアップが幕を開くのだった。



 ――――――――――――――


 天音 凛 19歳 男 レベル:47811

 称号:ダンジョン踏破者(10/10)・無名の剣豪・終焉を齎す者・賢者の意思を継ぎし者

 SP:20750

 HP:376270/376270 MP:76920/101840

 攻撃力:86800

 耐久力:74390

 速 度:89400

 知 性:78050

 精神力:73850

 幸 運:75620

 ユニークスキル:ダンジョン内転移LV30・略奪者LV1

 パッシブスキル:身体強化LV10・剛力LV10・忍耐LV10・高速移動LV10・精神強化LV10・魔力回復LV2・魔力上昇LV10・状態異常耐性LV4

 アクティブスキル:金剛力LV10・金剛不壊LV10・疾風LV10・不撓不屈LV10・起死回生LV1・初級魔法LV3・纏壁LV6・留壁LV6(スキルレベルは纏壁に依存)浄化魔法LV1・索敵LV4・隠密LV4・鑑定LV1・アイテムボックスLV10・隠蔽LV1


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