第188話 治療終了

 それからしばらくは、順調に治療の日々が続いた。

 とはいえ、無理に体を動かしたせいで状態は悪化し、治療の日数自体は増えたんだが。


 本来、予定されていた日数が過ぎた段階でクレアたちは宵月に戻り、俺だけがクラシオンに残ることになった。

 それでもなお、治療を続けてくれるという七海さんには頭が上がらない。


 治療を受けた後は、魔力を馴染ませるために体を動かす。

 この組み合わせを一日に2セット。

 日に日に調子が戻っていく。

 そんな中、俺は自身に訪れた変化に気付いていた。


「……魔力に対する感覚が冴えているな」


 カイン戦にて、氷葬剣カースドから大量の魔力を受けたことによって、俺の体内に自分以外の魔力の塊が生じた。

 その塊を溶かし、本来の自分の魔力を馴染ませる訓練を積んだからだろうか。

 以前と比較し、自分の魔力に対する感覚が強まり、魔力操作も格段に上手くなっていた。

 ステータス自体は何一つとして変わらない。

 しいて言うなら、称号が進化したくらい。

 なのに、確かに成長したという実感があった。


「早く、ダンジョンに潜りたい」


 今の自分の実力を早く試したい。

 そして、強くなりたい。

 その想いが一層強くなっていく。


 そして、無事に治療を終えたその日。

 偶然にも、俺はその機会を得ることになるのだった――



 ◇◆◇



「――――ッ!」

「ふふっ、甘いよ」


 クラシオン、訓練場。

 そこで俺と七海さんは模擬戦を行っていた。

 俺の魔力を馴染ませる治療の一環だ。


 両者は素手で、ステータスは俺に合わせる形で七海さんが調整してくれている。

 だから条件は全く同じはずなのだが、これがどうもうまくいかない。

 さすがに歴戦の猛者というだけはあり、一撃入れるのにもかなり苦労するといったところだ。


「うん、この程度にしておこうか」


 そして本日、最後となる模擬戦が無事に終わる。


 七海さんのおかげで、本来の予定よりずいぶん早く体調が元に戻った。

 これでようやく、再びダンジョンに潜ることができる。

 ……強くなることができる!


 そう内心で歓喜していると、七海さんがくすりと笑う。


「元気があって何より。ひとまずこれで完治といったところか」

「はい。治療してくれて、本当にありがとうございました」

「頭を上げてくれ。それにクレアくん直々の頼みだ。彼女には幾つも借りがある。応えないわけにはいかないからね」

「クレアに借り……?」


 クレアと七海さんは両方100000レベル超えのSランク冒険者。

 それも以前聞いたところによると、Sランクになったのはクレアの方が後だ。

 にもかかわらず、七海さんの方がクレアに借りを作っているのか。

 二人がどういう関係なのか改めて気になった。


 だが、それを尋ねることはできなかった。

 なぜなら――


「っ、これは!」

「地震? いや違う、この揺れは……」


 クラシオンの建物全体が、小さく振動する。

 この揺れには心当たりがあった。

 俺と七海さんは顔を合わせ、同時に口を開く。


「「迷宮崩壊ダンジョン・カラプス」」


 それと同時に、訓練場の中に一人の男性が入ってくる。



「ギルドマスター、緊急の用件が」

「分かっている、右京。迷宮崩壊だろう?」

「はい。ただ場所が問題で……」

「ふむ、この辺りにあるダンジョンで迷宮崩壊が起きてほしくない場所といえば一つしか思い当たらないが」

「多分、予想通りです。南にあるAランクダンジョン【冥獣ダンジョン】で発生したみたいです。至急救援を求めているようですが……」

「分かった、今すぐ向かう。今日は私が非番でよかったよ。君はここに待機し、各地への指示などを頼む」

「了解しました」



 それだけの短いやり取りの後、七海さんは訓練場を出て行こうとする。

 その背中に向けて俺は言った。


「俺もいきます」

「……分かった。では、一緒に向かうとしよう」


 かくして俺たちは、迷宮崩壊の発生したAランクダンジョン【冥獣ダンジョン】に向かうのだった。

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