第135話 Aランクパーティー

 クレアから合同攻略の誘いを受けた翌日。

 都心から少し離れた郊外にて出現した新規ダンジョンに、俺はやって来ていた。


 程近い場所には住宅街が広がっているが、ダンジョンの近くに一般人の姿はなかった。

 隔絶の魔塔が現れた時もそうだったが、新しく現れたダンジョンにはどれほどの危険があるか分からないため、許可を受けた者以外が近付くことを禁止されているのだ。


 その代わり、ダンジョン前には八人の男女が立っていた。

 全員がしっかりとした装備に身を包まれている。

 鎧だとか、ローブだとか、そういった感じだ。


「さすがはAランクパーティー。雰囲気が違うな」


 そんな彼らを見て、俺はそう呟いた。

 そして昨日、クレアから聞いた話を思い出す。


 新規ダンジョン初挑戦時には、事前にダンジョンの難易度が調べられる。

 特殊な機器をゲートの中に入れて内部の魔力を測定することにより、ある程度の予測を立てることが可能なのだ。



 その過程を経て、新規ダンジョンは大きく2つに分けられる。

 Cランク以下か、もしくはBランク以上の難易度かの2つに。

 Cランク以下の場合でも、安全を考慮し、Bランクダンジョンの攻略経験があるパーティーが初攻略を務めることが多い。

 そしてBランク以上のダンジョンにもなると、日本でも数少ないAランクパーティーが担当することになるのだ。



 今回現れた新規ダンジョンは、魔力測定の結果から10000レベルが必須という結果が出たとのことだった。

 これはBランクダンジョンに相当する数値であるため、宵月はギルドに一組しかいないAランクパーティーを投入すると言っていた。

 ちなみにクレアは単独でSランクなため、また別枠らしく、今日は来ていない。

 ……正直、俺が一番一緒に攻略したかったのはアイツなんだけどな。



 なんにせよ、ここにいる者たちは、普段から活動している冒険者の中でも上位1%に入る、圧倒的な強者たちというわけだ。

 レベルだけなら、この中で俺が一番の格下。

 気を引き締めていく必要がある。



 そんなことを考えながら彼らのもとに向かう途中、俺は見知った顔を見つけた。

 その男の名前は八神。

 以前、俺とクレアを宵月ギルドまで連れて行ってくれた人だ。

 クレアの話によると、彼がこのパーティーのリーダーであるとのことだった。

 どうやら、ただの運転手じゃなかったらしい。



 何はともあれ、まずは挨拶か。


「天音です。今日はよろしくお願いします」

「……チッ、本当にきたのか」


 だが、返ってきたのは舌打ちだった。なんだこいつ。


 いや、思い返してみれば初対面の時にも同じような反応をしていた記憶がある。

 理由は分からないが、どうやら俺は彼に嫌われているようだ。


 ふと周囲を見渡すと、八神以外の奴らも、俺を興味深そうに眺めていた。

 事前にギルドマスターから話を聞いているんだろうが、このランクのダンジョン攻略に、俺のような若造が参加することに対し、懐疑的な感情を抱いているようだった。


 ……まあ、そりゃそんな反応にもなるよな。

 俺が彼らの立場でも同じことをするはずだ。

 申し訳ないが、彼らには少し我慢してもらうとしよう。


 そんなことを考えていると、苛立った様子のまま八神が告げる。



「言っておくが、お前を同行させるのはギルドマスターに言われたから仕方なく、だ。戦闘には参加せず、ずっと最後尾にいろ。それがお前を連れていく条件だ。これを守れないようなら、そこでお前は置いていくからな」

「分かっています」



 昨日の時点で聞いていた条件と相違ないので、こくりと頷く。

 俺としても、わざわざしゃしゃり出て、パーティーの連携を崩すつもりはない。

 というかそれをしてしまったら、彼らの実力を見るっていう本来の目的も果たせなくなるからな。


 その後、最後の確認事項を終えた後、俺たちはとうとうダンジョンに潜ることとなった。

 リーダーの八神を先頭に、次々とゲートを潜っていく。

 当然、俺は最後尾だ。


 彼らを見届けながら、俺はふと思った。


「さて……どんな長丁場になることやら」


 新規ダンジョンでは下層に繋がる階段がある位置が不明であることに加え、魔物や罠をいつも以上に注意して進んでいく必要がある。

 そのため、攻略にかかる時間は通常の数倍となる。

 Bランクにもなると、最低でも一日はかかることだろう。


 ……一応、華にはこのことも伝えておいた。

 今日は帰ってこれないと思うって。

 そしたら、隔絶の魔塔に行ったときみたいに、華は『……彼女とお泊りとか、そういうことじゃないんだよね、お兄ちゃん? ふふふ』と笑顔で尋ねてきた。


 なぜかは分からないが、その時、俺は背筋が凍えたような気がした。

 笑顔のはずなのにやけに怖く感じてしまったのだ。

 いったいあれはなんだったんだろうか……。


 と、そんな風に関係ないことを考えていると、とうとう俺の番がやってくる。

 現在俺はスパン中なため、当然ゲートを潜るのではなく――


「ダンジョン内転移」


 ――スキルを使って中に入る。

 目の前には、先に入っていた八人が立っていた。


「…………?」


 気のせいだろうか。

 ダンジョンの中に足を踏み入れた瞬間、俺は形容しがたい違和感を覚えるのだった。

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