第134話 合同攻略
クレアの笑顔に圧倒されていると、突如としてプルルルルと着信音が響き渡る。
どうやら彼女のスマホに通話がかかってきたようだ。
「父からのようです。少し失礼します」
「ああ」
俺に断りを入れた後、クレアはウルフんを左腕に抱えたまま通話に出る。
「はい、もしもし」
『クレアか、出てくれて助かった。少し相談したいことがあるんだが、今大丈夫か?』
「……はい、問題ありません」
クレアはそう答えながら、俺を一瞥し、少し距離を取る。
重要そうな話だったし、俺の耳には入れたくないと考えたのだろう。
一人だけ置いて行かれた形になるが、このまま立ち去るのもなんだったので、とりあえず通話が終わるのを待つことにする。
およそ2分後、通話が終わったのかクレアがこちらに歩いてくる。
いや、よく見るとまだ耳にスマホを当てたままだ。どうしたんだろうか?
疑問を抱いている俺の耳に、クレアとギルドマスターの会話が飛び込んでくる。
『そうか、クレアがそう言うのなら、一度天音に連絡を取ってみるよ』
「その必要はありません。天音さんとは今一緒にいるので、私が確認してみます。返答が聞けた後でまた連絡します」
『えっ? ちょっと待て、何で用もないのに、うちの可愛い娘と天音が一緒に――』
プツッという音とともに、ギルドマスターの叫び声が無情にも断ち切られた。
最後のやり取りを聞いていた俺は、思わず苦笑いを浮かべる。
「ずいぶん愛されてるんだな」
「過保護、という表現の方が適していると思うのですが……」
俺の言葉に不満があったのか、うっすらと頬を膨らませるクレア。
何はともあれ、家族仲が良いみたいで何よりだ。
「それで、用件は何だったんだ? 俺の名前が出てたみたいだけど」
「そうでした、そちらが本題です。父のことはひとまず捨ておきましょう」
本人が聞いたら泣いてしまいそうな表現で話題を変えたクレアは、続けて言う。
「天音さん、宵月に仮入団した際、本加入の判断材料としてうちのギルドメンバーと合同でダンジョンを攻略するといった話を覚えていますか?」
「ああ、もちろん」
当然覚えている。
しかし、それを聞いてくるということはつまり――
「とうとう合同攻略のお誘いがきたって訳か」
「はい。ただ2つほど問題がありまして」
「問題?」
「はい。1つは、攻略日程が明日と急なことです。そこで一つお聞きしたいのですが、天音さんは現在スパン中でしょうか?」
「……いや、その点については大丈夫だ」
少し間を置いた後、俺は首を振った。
実際は今日もダンジョンを攻略した帰りなのだが、ダンジョン内転移のスキルレベルが上がったおかげで、今の俺は足を踏み入れたことがないダンジョンにも入ることができる。
ゲートを通る際に気を付ければ、まずバレることはないだろう。
それにしても、攻略予定が明日とはずいぶんと急な話だ。
合同でダンジョンを攻略する場合、一週間以上前には通知するのが普通。
宵月のギルドマスターともあろう方がそれを忘れていたとは思えない。
恐らく、何か別の理由があるはずだ。
「では、もう1つの問題についてですが」
そんなふうに考える俺に向かって、クレアは告げる。
「今回挑戦するのは、今朝新たに出現したばかりの新規ダンジョンです」
「――――ッ」
彼女の言葉を聞き、俺は思わず息を呑んだ。
新規ダンジョンとは、その名の通りこの世界に新しく出現したダンジョンのことだ。
過去に攻略した者がいないため、どんな魔物や罠が出てくるかは不明であり、危険度が通常のダンジョンとは比較にならない。
多くの場合、新規ダンジョンの初攻略は高ランク冒険者(特にギルド所属の者)が受け持ち、その攻略記録については、冒険者協会を通じて共有するようになっている。
そして今回、ダンジョンを受け持つことになったのが宵月なのだろう。
新規ダンジョンの情報を得ることは急務なため、挑戦が明日なのも納得がいく。
問題は俺が、その申し出を受けるかどうかだが――。
「幾つか質問してもいいか?」
「はい、私に答えられる範囲なら」
決断を出すにはまだ情報が足りない。
そのため、ギルドマスターからある程度説明を受けているクレアに幾つか質問を投げかけ、情報を集めていく。
けれど、もしかしたらその時間は無駄だったのかもしれない。
心の奥底では、既に俺の意思は固まりつつあった。
宵月ギルドに所属するメンバーの実力を確かめるには、何が起こるか分からない新規ダンジョンの方が適していること。もちろん、それも理由の一つだ。
だけどそれ以上に、俺の中には抑えきれない好奇心があった。
ダンジョンを周回するだけでも、恐ろしい速度でレベルは上がり、俺は強くなれる。
だけど強さを得るには、レベルを上げる以外にも大切なことがある。
無名の騎士、オークジェネラル、纏雷獣、柳――数々の強敵との戦いは、俺の実力を何段階も引き上げてくれた。
未知なる強敵が待ち受けているのなら、それに挑まない手はない。
俺は強くなりたい。
だから、答えはもう決まっていた。
「――と、私から答えられるのはこの程度です。もっと情報が必要なら、父に直接聞いてみますが」
「いや、大丈夫だ。もう決めた」
一度言葉を止めた後、俺は言った。
「その合同攻略に、俺も参加させてくれ」
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