第75話 解散

 ダンジョンに入ること数十分。

 拠点となりそうな場所を見つけることができた。

 ひとまずこの場所を中心に活動するべきだろう。


 今日の目標は華に冒険者の心得を教えるとともに、できれば技能模倣ストックの練習も行いたいところだったんだが……


「由衣と零もいるけど、華はそれでも構わないのかな? おーい、華ー!」


 その疑問を解消するため、俺は華を呼んだ。

 華はぴょこぴょことこちらに来る。



「お兄ちゃん、どうしたの?」

「いや、今日の一番の目的は華に冒険者の心得を教えることだけど、できれば技能模倣の使い方も検証しておきたかったんだ。でも今は由衣と零がいるし、華がどう考えてるか聞きたいと思ってな」

「問題ないよ! 私は2人にならこのスキルのこと、教えてもいいって思ってるから」

「そうなのか? けど由衣はまだ分かるとして、零は初対面だろ?」

「お兄ちゃんが判断を私に委ねるってことは、少なくともお兄ちゃん自身は零さんのことを信頼しているんでしょ? なら、きっと大丈夫だよ」

「……そうか」



 それだけ俺を信頼してくれているということだろう。

 心が温かくなると同時に、冷静な頭が一つの事柄を思い浮かべる。


 俺はまだ華に、ダンジョン内転移について説明していない。

 それは決して華を信頼していないからではなく、話すべきタイミングを見計らっているためだ。


 これまでに常々思っているが、ダンジョン内転移は普通のユニークスキルとは大きく異なっている。

 戦闘面での有用性は普通のユニークスキルに大きく劣るものの、レベルアップの効率を通常の数十倍にまで引き上げてくれるという点で一線を画す。

 後ろ盾も何もない状態で、このスキルについて広めるわけにはいかない。

 俺という存在を取り合いになるだけならまだマシで、敵対した者たちからは命を狙われる可能性があるから。



「後ろ盾……か」



 逆に言えば、それさえあれば公表することもできるのかもしれない。

 妹の華ごと守ってくれるような、簡単には手を出せない後ろ盾。

 この国か、それとももっと身近なところでいうとギルドか。

 しかし、少なくとも世界トップランカーを複数保有しているギルドでもなければ、あまり効果はないだろう。

 

 となると、結局のところ俺がさらなる力をつけるのが最も早い方法に思える。

 もう少しだけ、この力を華に伝えるのは待っていてほしい。


 そんなことをつい、考えてしまうのだった。



 その後、華の意見も聞けたところで、さっそく彼女の技能模倣を試してみることにした。

 簡単にスキルの情報について由衣と零に説明すると、2人は驚いていた。


「それはすごいスキル。さすがは凛の妹なだけある」


 零は腕を組み、通ぶった表情でこくこくと頷いていた。

 いったい奴はどの立場なんだろう。


 リアクションがより大きかったのは由衣だ。


「ユニークスキルなんて、すごいよ華ちゃん! それにたしか零ちゃんもそうだったし、ここにいる半分がユニークスキル持ちだなんてびっくり! どうしましょう凛先輩、私たちだけ普通のスキルしか持っていませんし、なんだか2人が眩しいですね!」

「え?」

「え?」


 そういえば由衣に話したことはなかったか。

 思わず素で驚いた俺の反応を見て、由衣もきょとんした表情を浮かべる。

 助け舟を出してくれたのは華だった。



「由衣先輩、お兄ちゃんも一応ユニークスキル持ちですよ」

「えっ!? 聞いてませんよ凛先輩! この裏切り者ー!」

「ちなみに戦闘とかで使い物にならないよわよわスキルらしいですけど」

「信じてましたよ凛先輩! これからも仲良くしてくださっ!?」



 俺は両手で由衣の頬を引っ張りながら、零に視線を向けた。

 むにむに。



「そういえば、たしかに零もユニークスキル持ちだったな」

「うん――魔法剣」


 零がそう唱えると、彼女の前に目に見えるほどの魔力が集う。

 そして――


四剣カルテット


 ――そう呟いた瞬間、火、氷、風、雷の刃を持った4本の剣が現れた。


 4本の剣を自分の体の周りに浮かせながら、零は口を開く。


「こんな感じ。自分が想像した剣を幾らでも生み出すことができる。風の刃で敵を切り裂く剣だったり、敵に触れた瞬間爆発する剣だったり、色々。もっとも性能を強力かつ複雑化するごとに、MPを大量に使用することになるけど」

「……なるほど、相当強いなそれは」


 前に見た時は風の剣だけだったから、こうしてまとめてみたらなかなか壮観だ。

 言ってしまえば、剣という形ならば何でも創造できるということ。それも魔法を内包した上で。

 華の技能模倣に勝るとも劣らない、強力なユニークスキルだ。


「これはたしかに凄いですね」

「うん、それにとっても綺麗!」


 華と由衣が心からの称賛され、零は少しだけ恥ずかしそうに剣を消した。


「それで、凛。この後はどうするの?」

「ああ、そうだな。技能模倣を実際に試してみたいんだが……」


 やっぱり手っ取り早く性能を確かめるには、攻撃スキルを使ってみるのが一番だろう。

 しかし、華が今コピーできるのはLV1のスキルまで。

 俺が持つレベル1のスキルは鑑定と隠蔽だけなのであまり適していない。


 だからと言って何の心配もすることはない。

 なぜならこの場には俺以外にも2人の冒険者がいるのだから。

 華はそういった意図で呼んだわけじゃないと思うが、運も含めての実力。

 やっぱりうちの華は天才だ!


 そんなわけで、俺は由衣と零に頼んでみる。


「よかったら、2人の持っているLV1の攻撃スキルを華にコピーさせてくれないか?」


 その頼みを聞いた2人は、顔を見合わせる。

 そして不敵に笑った後、俺に向けて言った。



「ごめん、LV2以上のスキルしかない」

「私、攻撃スキル1つも持っていません!」



 よし、解散!

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