結びのこのしてやられた感

 絵に描いたようなお嬢様学校に編入してきた主人公と、そこで高嶺の花やってる『菫の君』とが偽装恋人として過ごす日常のお話。
 百合です。それも教科書に載っていそうな清く正しく甘い正統派百合。約3,000文字という非常にコンパクトな分量の中で、きっちり人物と環境とその文化と空気感とそれぞれの間に漂う微妙な機微のようなものを過不足なく書いて、その上で最後のとどめの一行をビシッと〝書かずに〟締めるという、技巧だけで精巧に組み上げられた飴細工のような作品でした。原材料が完全に砂糖のみなのにどうしてこんなに味わいに奥深さがあるの、みたいな。
 なにがすごいってやっぱり最後の一撃(しかも致死性の空砲)なんですけど、普通に「書かれなかった一文」が結びの役割を果たすってだけでも十分技巧派なのに、それがタイトルの時点で思いっきりネタバレしてるというのはさすがに異常事態にも程があると思います。冒頭読んだ時点でこの終わり方するってほぼ百%予想できてしまうのに、そしてまんまとその通りになっているのに、この満足感はいったいどういうこと? 世の中には不思議な魔法を使う人がいるなあと思いました。いや本当に魔法ですよこれ。いわゆる「わかっているのに躱せない」タイプのオチってありますけど、これはもはやそんな次元ではない……(亜種というか、その一種ではあるにせよ)。
 総じてテクニカルなものを多分に感じる、さりげない小憎さのようなものが嬉しい作品なわけですが、でもそういうの全然意識しなくても普通に甘いお話だと思いますので、肩の力を抜いてゆったり読むとよいと思います。個人的にはふたりのやり取りの、信頼感のある聡さ賢さの中に、ちらちら顔を出す初々しさやたどたどしさのようなものに悶えさせられました。ただ強いばかりでなくただ不器用なわけでもないこの絶妙なさじ加減な! 好き!