第110話 オークション会場
「おはようございます」
翌朝フルールさんに迎えられて宿を出る。商都へ来た時と違い、今回は荷台ではなく客室のついている馬車だ。
ちなみにニルは宿で留守番をしている。さすがにオークション会場には入れないし、会場に従魔を置いておく厩舎などは存在しない。
聞き分けのいい従魔でよかった……。
「スイートルームはいかがでしたか?」
「すごかったです」
「はい、なんかもうすごかったです」
俺も莉緒もどうやら語彙力が死んでいる。当たり前だけど、宿というからには客は何もしなくてもいい。だけど正直俺は、メイドというものを侮っていた。お茶を飲みたいと思ったときにお茶が出て、小腹が減ったと思ったときにお菓子が出てくる。どうやってタイミングを図っているのか謎だが、欲しい時に欲しいものがでてくるのだ。
こんな快適空間は他にないかもしれない。さすがスイートルーム付きのメイドといったところか。
「それはよかったです。オークションは明日から三日間行われますので、よければその間ご滞在ください」
「えっ、いいんですか?」
「もちろんです」
宿が取れなければ最悪野営ハウスを街の外に出せばいいと思っていたけど、その必要はなさそうで安心だ。
というわけで俺たちは馬車に揺られながらオークション会場へと向かった。
会場は中央広場を挟んだ反対側のすぐ北側にあった。普段は劇場として使われているようで、大ホールにはかなりの人数が入りそうだ。今も着々と準備が進んでおり、商品搬入の護衛だろうか、物々しい装備をした人間が周囲を警戒している。
劇場へと入り、ホールの裏側へと進んでいくフルールさんについていくと、これまた物々しい警備がついている扉へとやってきた。
「ラシアーユ商会のフルールよ。出品物を届けに来たので通してくれるかしら」
首から下げたギルド証を警備員へと見せるとあっさりと通してくれる。ただついてきただけの俺たちにも視線が飛んでくるが、特に咎められたりはしない。
「えーっと、ミスリルの
「ミスリルの部……ですか」
「ええ。シュウ様たちが出品された商品は、ほとんどがミスリルの部に出品されます。最低落札価格十億フロンがミスリルの部ですね」
「おうふっ」
十億ですか。しかもほとんどって、ぱねぇなオイ。
ちなみに金の部が十万フロン、
オークションは三日間で、それぞれ午前と午後があり全六部構成となっている。二日目の午前まで三部を使って金の部、三日目の午前までの二部が白金の部、最後三日目の午後がミスリルの部だそうだ。
「やぁ。待っていたよ。そちらが例の二人かい」
部屋に入ると恰幅のいい柔和な笑みを浮かべたおじさんがいた。
「商会長……。はい、この二人です」
誰かと思えばまさかの商会長とは。例の二人ってことは俺たちのことだよな。何か用事でもあるんだろうか。
「初めまして。柊です」
「莉緒です」
「おお、これは失礼。ラシアーユ商会長をやっとるラモンドだ」
よく考えれば持ち込んだ商品が商品だからそりゃ気になりもするか。昨日もフルールさんは商会本部に顔を出したみたいだし、何か話をしたのかもしれない。
「とりあえず納品を先に済ませましょう」
「そうじゃな。ワシもどんなものか気になるでの」
わくわく顔で率先してくれる商会長だけど、ただ単にレアモノ商品を見てみたいだけなんじゃと思ってしまう。
さっそくスタッフを捕まえたラモンドさんは、商品の鑑定部屋へと案内してくれた。
「ここで鑑定と共に商品の搬入を行うんじゃよ」
「そうなんですね」
「では順に出していってください」
スタッフに促されるまま、部屋に置かれたテーブルの上へと次々に異空間ボックスから取り出していく。
「ほほぅ……」
「どれも間違いなく本物ですね。連絡通りの品物で間違いないです」
興味深げに目を輝かせる商会長に、鑑定しても表情の変わらないスタッフさん。最低落札価格十億フロンのミスリルの部のスタッフだからして、こういったレアモノには普段から触れているのだろうか。
いやしかし、地竜の魔石とか心臓とか血液とか逆鱗の一品一品が十億フロンとか、どうなってんだこの世界は。さすがに牙や爪は白金の部みたいだけど、それでもすごい。
「このまま白金の部の商品も出していいかしら」
「ええ、かまいませんよ」
というわけで持ち込んだ商品は全部放出することになった。正直ここまで地竜が部位ごとにオークションにかけられるとは思っていなかった。こりゃ一匹丸ごと売るより値段が吊り上がりそうだ。
「はい、これで全て確認できました。ありがとうございます」
「いやはや、貴重なものを間近で見せてもらったよ。ありがとう」
全て商品を納めた後にラモンドさんからそんな言葉が出てくる。
納品を終えたため部屋を出ると、スタッフからオークション会場への入館証をもらった。
「明日は金の部から始まります。持ち込んだ商品が出品されるのは明後日の午後の部からですが、ご興味があれば明日からご参加ください」
「わかりました」
こうしてやることを終えた俺たちは、オークション会場を後にした。
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