第99話 フルールさんにいろいろ売りつけよう

 翌日の朝、俺たちはさっそくラシアーユ商会レイヴン支店を訪れていた。ニルもついてきているが、さすがにお店の中には入れないので入り口で待機している。


「おはようございます。シュウ様、リオ様」


「おはようございます」


 目ざとく俺たちを見つけたフルールさんに挨拶を返していると、彼女の表情がだんだんと疑問形になっていく。


「本日はどうされたんでしょうか?」


 真面目な顔でまっすぐにフルールさんの前へと向かったからか、彼女から用件を尋ねられた。


「ちょっとフルールさんに相談があるんですけどね」


「相談……ですか。とりあえず座りましょうか」


 前回も勧められた席へと移動する。改めてフルールさんと向き合った俺たちは、話を切り出した。


「ミミナ商会がちょっと無理やり金策に走ってる話は知ってますか?」


「ええ。存じ上げております。なんでも集積所の修復にお金がかかるとか」


 ちらりと店の入り口で待機するニルへと視線を向けるフルールさん。


「それなら話が早いです。ちょっとお世話になった工房があって、なんとかならないかなと思ったんです」


「ふむ……」


 というわけで、手持ちの素材やら何やらを大量放出するのでいくらかで買い取ってもらい、その利益で工房に融資をお願いできないかと話をしてみる。


「なるほど。そういうわけですね。であれば……」


 口元に笑みを浮かべると、一呼吸おいてフルールさんが口を開く。


「こちらとしてもぜひお願いします。ミミナ商会が無茶な金策で影響力を下げているこの時に、他の工房などを我が商会へと取り込んで大きくするチャンスですので」


「あ、ありがとうございます」


 力強く宣言するフルールさんに思わず気圧される。すごく乗り気っぽいし、こちらとしては大助かりだけど。


「大きい物もあるでしょうから、直接倉庫に参りましょうか」


 こうして商会の倉庫へと向かうべく立ち上がると、他にも二人ほど職員が後ろからついてきた。

 一度お店を出てから裏手の倉庫へ向かうと、入り口にいたニルもついてくる。倉庫の入り口は広く空きスペースも多いせいか、ニルも中に入ってくる。


「ここなら大丈夫でしょう」


 以前木材を納めた倉庫とは違う場所だったが、広さは同じくらいだろうか。魔物の牙や爪、骨などが置いてあるのが見えるところから、ここは解体場だろう。ここならアレも出せそうだな。さっそく大物からいくか。


「じゃあ地竜から出しますね」


「へっ?」


「かなり大きいので離れていてください」


 Bランクのマーダーラプトルで確か二千万以上になったはずだ。地竜はサイズも大きいし、一匹で数億はいくんじゃなかろうか。

 ミミナ商会の金策の被害がどれだけ出ているのかわからないので、出し惜しみはしない。


「あ、ちょっと、待ってください!」


「はい、なんでしょう?」


「も、もしかして未解体でしょうか」


「あー、そうですね。あと仕留めるのに手こずったので、傷だらけでもあります」


「……少しだけ見せていただいても?」


「かまいませんよ」


 莉緒へと視線を向けると頷いて、異空間ボックスの入り口を開く。


「えーっと、これかな」


 奥から引っ張り出してきたのは地竜の頭だ。最後は首を落とすことで倒したけど、疲労の限界だったからか異空間ボックスに収納してそのままだったやつだ。

 地面へと転がる地竜の頭は、小さくなったニルの三倍ほどある。時間停止の異空間ボックスに入っていたので新鮮だからして、その首からは血が滴ってくる。


「ラ、ランベルは血を回収して! ウォルグは今すぐ応援を呼んできなさい!」


「「は、はい!」」


 地竜の首から血が滴ってくるのを見た瞬間、フルールさんが顔色を変えて二人に指示を飛ばす。一人が大きな器を取りに走り、もう一人が倉庫の外へと駆けて行くと、ニルが地竜の首へと近づいてくる。そして大きく口を開けたかと思うと――血の滴る首へとかぶりついた。


「ちょっ!?」


「ええっ!?」


「ああああっ!?」


 俺と莉緒の驚きの声の後にフルールさんの叫び声が響き渡る。

 それでもニルは地竜の首をおいしそうに食べ続けている。まさかいきなりかぶりつくとは思わなかったけど、グレイトドラゴンより強かったしきっと肉も美味しいんだろう。

 まぁちょっとくらいならいいか。小さくなったおかげか、食事量は大きさに合ったものになったから全部食われることはないはずだ。


「お前、食い意地だけは張ってるなぁ」


 宿で出てきたご飯もすごい勢いで食べてたしな。


「シュウ様、このままでいいんですか!?」


 減っていく地竜の首の肉と俺を交互に見つつ尋ねてくるフルールさんに「問題ない」と頷きを返しておく。ニルには首周りのお肉だけだぞと釘を刺しておいた。

 血を回収すべく器を取りに戻ってきたランベルさんは、この状況にどうしていいのかあたふたしていて面白い。


「わふぅ~」


 しばらくして満足したのか、ひと鳴きすると俺の傍まで戻ってくるとごろんと寝そべった。口の周りが血でべったり汚れているので洗ってやる。

 地竜の頭というと、俺の指示通り首周りのお肉がなくなっているだけでおさまっている。単純にお腹いっぱいになっただけかもしれないが。やっぱりサイズが小さくなると食べる量も減るよな。


「もう満足したみたいですね」


「あ、はい。……では」


 ランベルさんが血を回収すべく器をセットしていると、応援を呼びに行っていたウォルグさんも戻ってきたのか、大人数の足音が聞こえてきた。


「フルールさん、応援を呼んできました!」


 そして応援に駆け付けた全員が、地竜の頭を見た瞬間に悲鳴を上げるのだった。どうやら急いで応援を呼んだはいいが、何を解体するのか知らせていなかったらしい。

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