第54話 城壁内侵入
死屍累々となった騎士団と魔法師団を確認すると後ろを振り向いて、莉緒を呼ぶ。
「どうだった?」
「ほぼほぼ片付いたかな」
俺がぶち抜いたアースウォールだが、壁の中央しか破壊されておらず両端は健在だ。その中央の穴を通って莉緒のフレイムジャベリンが侵入していったんだが、壁を越えたあと左右に分散して、まんべんなく敵へと突き刺さっている。
なかなか器用なことをするもんである。壁の向こう側は見えてないだろうし。
フレイムジャベリンと言えば、中級のそこそこ殺傷力のある魔法だ。騎士や魔法使いといえど、まともに受けては無事でいられない。
ましてやアースウォールを抜けた後に曲がってくるとは思ってもないだろう。まともに直撃を受けた奴もちらほらといる。
「ま……、待て……!」
剣を杖代わりになんとか立ち上がった騎士がいるが、はいそうですかと待つわけがない。
「そういえばトービルさんはいないのかな」
「さすがに騎士団とかが出張ってくるようなところにはいないんじゃないかしら」
「かなぁ」
城門の待機所へと顔を出してみるが、やっぱり誰もいない。一言挨拶でもと思ったけどさすがに無理だったみたいだ。
「まずはどこに向かったらいいか聞きたかったけどしょうがない」
莉緒と頷き合うと城門を潜り抜ける。
「うわぁ……」
そして城門内の惨状を見て思わず声が出てしまった。あたりに瓦礫が散らばっていて、綺麗に整えられていた庭や花壇がえらいことになっている。
けが人は見当たらないようだが、城壁から矢を打ち込んでいた人間はどこいったんだろうか。まぁ知ったこっちゃないけど。襲ってこなけりゃそれでいい。
振り返ってみると、城壁裏側の破壊痕がすごいことになっていた。直径五メートルくらい、円形で壁がなくなっていて中が見える箇所が四か所ある。
「とりあえず道なりに進むしかないな」
「城に向かえばいいのよね?」
「たぶん」
城門からの道は奥へと続いている。今のところ一本道だし、城も見えているから迷いはしないだろう。門から見えていた尖塔は城の中央から伸びているようだ。他にも三本ほど、中央ほどではないが高い尖塔が見える。
しばらく歩いていると向こう側から集団が近づいてきた。また凝りもせずに騎士団と魔法師団だろうか。
「あ……、
「えっ?」
莉緒の呟きを聞いた俺は、目の前に現れた集団を注視する。視力を強化すると、確かに先頭にはクラスメイトがいた。
「ここで出てくるのか」
ただし人数は四人だ。
「おいおい、ホントに生きてたよ」
「久しぶりじゃん。えーっと、無職くんに無能ちゃんだったっけ?」
「あっはっはっは!」
真中と火野が俺たちを見つけてさっそくいじってきた。
「二人は相変わらずだな……」
根黒の変わりように身構えていたが、この二人は少なくともいつも通りに見える。
「あらあら、莉緒さんお久しぶりです。……ちょっと痩せました?」
「デュフフフ……」
おっとりした大鳥穂乃花もいつも通り、オタクは……って何莉緒のことずっと見てんだよ。っつか舌なめずりすんじゃねぇよ、気持ちわりぃな。
念のため鑑定してみるが相変わらず名前だけ……って職業が見えるようになってる?
真中が大魔導士、織田が狂戦士、火野は魔法剣士、大鳥は聖女か……。聖女って職業なのか……。なんとなく治癒魔法が得意そうだが。それにオタクが狂戦士って……。気持ち悪い笑い方するバーサーカーとかなんやねん。
莉緒にも小さな声で伝えると、驚いた表情をしながらも頷きが返ってきた。まさかここで鑑定が成長するとはね。
「お前たちは勇者を援護するんだ」
「はっ!」
後ろの騎士団と魔法師団が早くも陣形を整え終わろうとしている。二人ほどクラスメイトと並ぶように出てきたのは、身に着ける装備も豪華な騎士だ。ゴツイ剣を持っている人物と、重量のある盾を持っている人物は、団長と副団長とかだろうか?
ついでとばかりに鑑定すると、ゴツイ剣の方は名前がヘニング・フェスター、職業は聖騎士。盾の方は名前はワルデマール・ラインツ。職業は重騎士らしい。初めて家名ありに出くわしたけど貴族なのか。
ということは後ろの魔法師団にも団長クラスがいるのか? っていた。
片っ端から鑑定をかけていると、職業が大魔道士のダフィット・ゲオルクってやつがいた。……真中の大魔導士と何が違うんだろうか。
「これが最大戦力なのかな?」
クラスメイトが二人足りないが、さすがにこのメンバーより強いということはないとは思う。
「真中たちは何しに来たんだ?」
「はぁ? そりゃ王都で暴れてるお前らを捕まえに来たんだろうが。お前らこそ何やってんだよ」
「は? 捕まえに? 殺しに来たの間違いじゃないのか?」
「はあぁぁ? 殺す? 何物騒なこと言ってやがる。仮にもクラスメイトだろうが……」
本気で言ってるのか? それとも何も知らないだけなのか……。
「何って……、現に莉緒は根黒に刺されて殺されかけたんだが」
「えっ?」
俺の言葉を聞いた瞬間に、真中の視線が莉緒へと向く。
「ははっ、あの根暗が柚月を刺しただって? ……何冗談言ってんだ。元気そうじゃねぇの」
そうして笑い飛ばす真中には、俺の言葉は届きそうになかった。
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