第42話 Bランク

「では合わせて2834万フロンになります。どうぞお納めください」


 お昼過ぎにギルドへと顔を出すと、受付嬢に個室へと連れられた。そこで各種部位の査定額を告げられたんだが、もはやはっきりとは覚えていない。肉だけで一千万を超えたと聞いた時点でびっくりしすぎた。


「……あ、はい」


 テーブルには各種硬貨が載せられている。白金貨二枚、大金貨八枚、金貨三枚、大銀貨四枚だ。

 懐から出した革袋に硬貨を順に入れていく。なんというか、思ったより高く売れた。


「残念ながら血抜きされたあとだったんでな。血液は買い取れなかったぞ」


 そしてギルドのサブマスターであるビルダインもなぜか一緒に部屋にいて、プチ情報を教えてくれる。


「血液まで売れるんですか」


「あぁ。Bランクのマーダーラプトルともなれば、食用や錬金術などにも使えるからな」


 そうなのか……。地球にも豚の血を使ったソーセージとかあったな。次からは血抜きしないで時間停止ボックスに突っ込んでおこうか。


「マーダーラプトルってBランクだったんですね」


 莉緒が驚いた顔で呟いているけどそういえばそうだな。だから値段も一桁多いんだろうか。


「なんだ……、お前らコイツのランクも知らなかったのか?」


「初めて知りました」


「……コイツはお前らが仕留めたんじゃないのか?」


 胡乱げな視線を向けてくるビルダイン。どこかから獲物だけ仕入れて売りに来たと思ってるんだろうか。


「ちゃんと倒しましたよ」


 疑われて若干不機嫌になる莉緒。今となってはこの獲物を仕留めたのは俺なのか莉緒なのかさっぱり覚えてないけどな。少なくとも二人がかりで対峙する相手でもない。


「ランクもわかってない相手に挑戦するとか危ねぇだろうが」


 あ、そういうことか。確かに強さの分からないやつを相手にするのは危険だな。そりゃ獲物をかっさらってきたと疑われてもしょうがない。


「だいたいどうやって仕留めたんだよ……。ほとんど傷ついてねぇじゃねーか。こんなのAランク冒険者でもなけりゃ実現不可能だっつーの」


 言い終わるとともに視線が鋭くなるビルダイン。

 何か睨まれるようなことをした覚えはないけど、心当たりならないわけでもない。


「お前ら何モンだ?」


 ……あれ? 俺たちを召喚された勇者と知ってるわけじゃない?


「はい?」


 首をかしげながら答えるとビルダインが詳細を教えてくれた。

 通常、魔物と同じランクの冒険者が仕留めた獲物は、傷だらけで満額買い取りとなることはないそうだ。よくて半額、最悪十分の一以下になって、それをさらにパーティーメンバーで分けることになる。


「ということはだ。これを無傷で仕留めるというお前らは、Aランク以上に相当する冒険者ってことになる。そんなデキル冒険者をギルドが把握していないのは問題なんだよ」


 Dランクで一人前。Cランクでベテラン。Bランクともなれば周囲の街にまで名前が知れ渡るほどとなる。Aランクがどういった存在なのかは推して知るべし。


「そうなんですか。じゃあ問題ないですね」


「は?」


 ちょっと変装して街に入り込んだが意味がないとわかったので、変な隠し事はやめることにする。


「私たち、まだEランクなので」


 間の抜けた返事をするビルダインへと、俺たち二人はギルド証を提示する。

 まじまじと見つめるビルダインを確認したところでギルド証を仕舞うと。


「それじゃそういうことで。ありがとうございました」


 そそくさとその場から立ち去ろうと立ち上がり、退出しようと扉へと向かう。


「待て待て! まだ話は終わってない!」


 が、ビルダインからの待ったがかかってしまった。説明が面倒なのでこのまま帰ろうと思ったのに。


「なんですか」


「だから、お前らは何モンだと聞いてるだろう?」


「……Eランクの冒険者だって言っただろ?」


 こめかみに血管が浮いているビルダインを静かに見据える。多少の威圧は感じるが、師匠と比べればなんてことはない。

 むしろ俺も威圧感を出せないものか。今まで師匠を相手にしていたから、意味のない威圧なんてしようとも思わなかった。


 よし……。こう、魔力をため込んで一足飛びで近づいて、ビルダインの首を刎ねるイメージを浮かべてみる。


「ポッと出の冒険者がそこまでの実力を持ってるなんてことはまずないんだ。……その、過去の、経歴など、教えて……もらえない……だろうか……」


 すらすらと喋っていた言葉が後半でつっかえるようになり、額から汗が流れ落ちてきている。

 なんかうまく威圧できてる気がするぞ。もしやこれはスキルが手に入ったのでは?


「ちょっと、柊?」


 またもや莉緒にツッコまれて我に返る。

 危ない危ない。思わずスキルの深淵へ潜り込むところだった。俺は師匠とは違うんだから気を付けないとな。


「あー、そうだな……」


 いい機会だし、自分の情報を出しつつクラスメイトの話でも聞いてみるか? 幸いここは個室でサブマスターと受付嬢の二人しかいない。


「この国の第三王女に召喚された、いわゆる勇者って言えばわかるか?」


 俺の言葉に目を見開くビルダイン。


「……勇者、だと?」


 んん? もしかして何か知ってるのか?

 話を聞いてみる気になった俺は、首を刎ねるイメージを引っ込めた。

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