第40話 情報収集と
「さすがにもういなくなってるな」
あのあと言葉通りに黒装束の男を再び気絶させ、額に『宿泊客を襲った暴漢は私です』と張り紙を張り付け、ロープでぐるぐる巻きのまま宿の玄関に叩きだした。翌朝確認してみればそこには誰もいなかったというわけだ。
「残念。野次馬に囲まれてバカにされてたら面白かったのに」
いやさすがにそんな面白いことになってたら最高だな。
「あはは、魔法は使えそうだったし、自力で逃げたのかもね」
気絶させてはいたけど、電撃での痺れがどれくらいで治まるかはよく知らない。わざわざ魔の森の魔物で実験なんてやらなかったし、必要もなかった。まぁ魔物と人間じゃ体のつくりも違うだろうから、参考にならないかもだけど。
「おはようさん。昨日はよく眠れたかい?」
階下へと降りるとカウンターのおばあちゃんが笑顔で話しかけてくれる。どうやら昨日の騒動は気づいてないようで一安心だ。
「ええ、ぐっすり寝れました」
「そりゃよかった。もう朝食は食べられるから、いつでも食堂においで」
「はーい」
愛想よく莉緒が答えると宿の裏へと移動して顔を洗い、そのまま食堂へ直行した。
「今日はさっそくお城に行ってみる? 今なら警備も手薄じゃないかしら」
パンをスープに浸しながら莉緒が首をかしげている。莉緒が言うように、王都にはもちろん王族が住まう城がある。街の北東が貴族街になっているが、その奥だ。
「いやいや、別に忍び込むわけじゃないからな」
「そうなんだ」
「堂々と乗り込んでブローチを叩きつけてやらないと」
「あはは! うん。そうだね」
宣言すると、莉緒もきりっとした表情で頷く。何が目的で召喚したのかは知らないが、いつまでもやられっぱなしじゃねぇぞ。
「だからまずは情報収集をしないとな」
「えっ……? 今日城に乗り込むんじゃないんだ……?」
残り少なくなったスープを最後まで啜ると一呼吸入れる。
「さすがに何も情報なしで突っ込むのは無謀じゃね?」
「それはそうだけど」
一瞬不満そうな顔になる莉緒。その頬をツンツンとつつくと指を掴まれた。
「じゃあひとまずは様子見ってことなのかな?」
「そうなるかな。警備の様子とか見られればいいんだけど」
「外から見てわかるものなのかな」
「だからこそ様子を見に行くんだよ」
思わず苦笑が漏れるが、首をかしげる莉緒は可愛いのでよしとする。
「そ、そういえばそうよね……」
「とりあえず城門前に行ってからいろいろ考えてみようか」
「適当ね!」
「どうせ最終的には乗り込むことになりそうだし、適当でいいんじゃない? そうと決まればまずはギルドに情報収集にでも行こうか」
「わかったわ」
黒装束にはさっそく正体がバレていたので、もう偽名を使うのはやめた。俺たち二人の服装も元に戻っている。
あと、ある程度の自重もやめることにした。特殊部隊っぽい黒装束を一瞬で無力化できることは伝わってるはずだ。なのである程度の実力は見せてもいいんじゃないかと思っている。
「今日はどういったご用件でしょうか」
さっそくギルドへと顔を出すと、昨日とまったく同じ受け応えが返ってきた。まったくもって事務的で面白味がない。
「城へ行きたいんですけど、一般の冒険者だとどこまで入れますかね?」
「はぁ……、観光ですか?」
腑に落ちない感じで確認を取ってくる受付嬢だが、まぁこんな質問してくる奴はいないんだろうか。冒険者なら聞く前に突っ込んでいきそうな気もするな。
「まぁそんな感じです」
正直に答えるつもりもないので適当に濁しておく。
「通常であれば王城前までは行けます。たまに王城内での依頼がギルドにも出ますので、その場合は中にも入れますよ。どこまで入れるかは依頼にも寄りますが……」
「へー、そうなんですね」
なかなか面白いことが聞けた。となれば。
「今はその依頼って出てます?」
「いえ、生憎と出ていないですね」
「そうですか」
手っ取り早く合法的に中に入れると思ったのに。残念。
だけど追加で、冒険者ランクBになれば城の中に入れるとも教えてくれた。どうもBランクからは貴族と同等の扱いになるようで、用事がなくとも城の中に入るのに近衛に止められたりはしないそうだ。
「ありがとうございます」
だからと言ってすぐになれるわけでもないので使える手ではないけども。
逆に言えば一般人はやっぱり入れないということか……。さてどうしたものか。
「あとは魔物の買取をお願いしたいんですけど、買取カウンターはどこですか?」
「はい、あちらになります」
とりあえず今はこの場でできることをやろう。ギルドに寄ったメインの用事を済ませますかね。
「いらっしゃい。坊やは何を出してくれるのかな?」
買取カウンターへ行くと、やたらと胸の大きい妖艶なお姉さんに出迎えられてしまった。王都で買取してくれるのは、どうやらザインと違ってむさいオッサンではないようだ。
「ちょっと大きいですけど大丈夫ですか?」
「んん? 大きい? ……あぁ、もしかして珍しく収納カバン持ちかい? 出せるだけ出してみてごらん」
俺が背負っている革のカバンを見つめてバンバンとカウンターを叩くお姉さん。このカバンは別に収納カバンじゃないんだけど、まぁ勘違いしてくれてるならそのままにしとこうか。
俺は背負っているリュックタイプのカバンを下ろすと手を突っ込んで、異空間ボックスからいつか仕留めた大型の獲物を取り出す。
「ひっ……、きゃあああああ!」
買取カウンターのお姉さんに悲鳴を上げさせたのは、四メートルほどの大きさのマーダーラプトルだった。
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