第39話 倍返しだ!
「ちょっとは立場をわきまえろよ。こっちはまだ聞きたいことがあるんだ」
俺を殺しにかかってきた連中と同じと認めた時点で、こいつらは敵認定だ。魔の森で師匠と過ごしてるうちに、追い出されたことについてはだんだんどうでもよくなっていた。けど直接殺されそうになったことはそう忘れられない。
「やっぱりこのブローチが発信機代わりになってるんだな?」
まず第一に確認すべきはこれかな。ブローチ捨てるだけでいいのか聞いておかないと。
「……ハッシンキとは何だ?」
おうふ。発信機だと伝わらないのかよ。
「これ持ってると私たちの居場所がわかるのね?」
会話するのも大変だと思いつつ気分を落ち着けていると、莉緒が後を引き継いで問いかけていた。
「……」
黒装束は無言だが否定の言葉は出てこない。どうせちゃんとした答えなんて期待はしていない。第三王女にもらったブローチだが、自分の中でもこれが原因だとほぼ確定している。
と、そういえばザインの衛兵が盗んだ云々言ってたけど、もしかしたらこのブローチのことだったのかもしれないな。
「俺たちを召喚した本当の目的は何なんだ? 魔王が攻めてくる云々と嘘までついて」
「魔王を倒せば元の世界に帰れるっていうのも嘘よね?」
「魔王ってのは魔族の国の単なる国王ってだけの話らしいな。それを倒したところで帰れるとは思えないしな」
ザインの街にしばらく滞在していた間、魔王の話題を聞くことはなかった。召喚された勇者の話も聞いたことがない。魔王や勇者の話はどこまで広がっているんだろうか。一般市民は知ってるんだろうか。
こいつらが一般市民とは思ってないが、どこまで知っているのか。
「ま、魔王……?」
その時点で疑問なのかよ。
師匠から聞いた限りだと、魔王という存在は魔族の国の国王陛下という形で存在することは確かだ。それを他の国の人間が認知しているかどうかはまた別の話か。
それとも召喚された俺たちへの説明が超適当だったのか、はたまた詳細は知らされていない系か。
「……っ!!」
思いっきりしかめっ面をしてしまったのがバレたのだろうか。黒装束の男の表情が戸惑ったものから急に引き締まる。
「どちらにしろ、こちらが受けた命令はお前たちのこの二日間の移動方法を確認することだけだ。こうなった以上手は出せんし、もう何もしゃべらんぞ」
「なんだ、殺すようには言われてないのか」
魔王云々の話はそもそも知らない可能性もあるわけか? 目的以外何も知らされていないというのはありそうだ。
「だったらもうちょっと穏便な聞き方があったんじゃないかしら」
莉緒がご立腹のようだが全くその通りだ。こんな黒装束姿じゃなくてもっと市民と紛れるような恰好してりゃ、警戒はすれど今みたいにはならなかったはずだ。
「ふん……」
不貞腐れた様子を見せる黒装束に、もうこれ以上聞いても無駄かと諦める。なんとかいろいろ喋ってくれればいいんだが……。がんばればスキルも生えないかな? こう、尋問スキルみたいなやつが……。
「どうしたの……?」
腕を組んで顎に手を当てていると、莉緒から声を掛けられる。
「いや、あー、これ以上聞いてももう喋ってくれそうにないし、どうしようかなって」
取り繕ったようになってしまったが、おおむね本心と間違ったことは言っていない。
「そうね……。こんなところに転がしておいたまま眠れないし」
「とりあえず玄関に捨ててくるか。『宿泊客を襲った暴漢です』とでも額に張り紙張り付けて」
「あはは!」
「そのあとはそうだな……」
多少引きつった表情を浮かべる黒装束の男を観察していると、少しずつ魔力の高まりを感じる。何か魔法を使おうとしてるんだろうか。そうはさせないけど。
「がはっ!」
とりあえず発動する前にみぞおちに蹴りを入れておく。
「魔法使おうとしてもすぐわかるから」
さすがに集中力を乱されれば魔法の発動はできない。何か封じる手段があればいいんだけど、そういう魔道具をザインで探してみたけどなかったんだよな。そこら辺の魔道具屋で売ってる代物でもなさそうだけど。
それかいっそのこと魔封じみたいなスキルでもあれば。もしくはそういう魔法の開発か。魔力を使って発動するわけだから、そこを乱してやればいいんだよな? とすると……。
「ちょっと……」
思考の海に潜りそうなところを寸前で、莉緒の声と脇腹への物理的なツッコミで遮られる。振り返ればそこには盛大な不満顔がある。
「ごめんごめん」
えーっと、なんだっけ。あぁそうそう、こいつらを玄関に捨てた後か。
「もう……」
ちょっと莉緒さんや、そんなふくれっ面も可愛いじゃないか。
「いい加減腹も立つし、このブローチだけど、直接第三王女あたりに叩きつけて返品しに行こうか」
「はい?」
「なん……だと?」
そこらへんに捨てるのは簡単だけど、それだとある意味こっちから接触できなくなる。それに逃げたみたいじゃね?
「これ持ってれば居場所がわかるんだろ? きっちりと熨斗を付けて返してやらねぇとな……!」
ポカンと口を開けていた莉緒だが、俺の言葉がだんだんと沁み込んできたようで。
「あははは! そうね、きっちりお返ししてやりましょうか」
やることは決まったとばかりに俺たちは頷いた。
「……ノシとはなんなんだ」
どこかから聞こえてきたセリフはスルーした。
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