第37話 王都の宿
交易都市ザインと違って、さすがに王都は広かった。だいたい広さはザインの四倍だろうか。冒険者ギルドも東西南北の街の入り口にそれぞれ支部があるようだ。
でも今日は宿から探そう。王都に着いたのも夕方だったし、早くしないと日が暮れてしまう。この世界の夜は早いのだ。
「本日はどういったご用件でしょうか」
というわけで冒険者ギルドへとやってきました。
「あ、風呂のある宿を紹介して欲しくて」
「宿……ですか?」
もう少しで夕方のピークを迎えるという時間帯は、しかし王都の冒険者ギルドは閑散としていた。ザインのギルドと異なり、王都というのに狭かった。……支部だからかな?
それでもカウンターの受付嬢はさすがである。綺麗どころをそろえているとギルド内での争いもやっぱり減るんだろうか?
「ここから近くて冒険者に人気のお風呂付の宿であれば……、『鳥の
貴族街か……。ザインでは聞かなかったけど、さすがに王都となればお貴族様も住んでるのか。
「そうなんですね。ありがとうございます」
聞きたいことは聞けたのでさっさと行こう。また変なのに絡まれるのも嫌だし。
「んじゃ行こうか」
「うん」
莉緒を伴ってギルドを出ると、聞いた道順通りに北方面へと向かう。しばらく歩いていると、不意に莉緒が大きくため息をついた。
「どうした?」
「だって……、ギルドからずっと後をつけてくる人がいるから」
「だなぁ……。まぁ直接手を出されたわけじゃないし、まだいいかなって」
「うーん」
だからと言ってどう対処すればいいのかもわからない。直接話を聞きにいって揉め事になるのも御免だ。
「ザインでの衛兵を見てると、俺たちに冤罪をかぶせるなんてし放題に感じるし」
「確かにそうね」
などと呑気に愚痴を言い合いながら歩いていると、何事もなく宿へと着いた。もしかすると見ず知らずの若者を秘かに護衛するお人好しとかが……。いやいや、いい人っぽく考えるのはやめよう。この世界の人間は全員を疑ってかかるくらいがちょうどいい。
「あら、いらっしゃい。お二人さんかい?」
出迎えてくれたのは、人好きのする笑顔のおばあちゃんだった。
「はい。二人部屋って空いてますか?」
「空いとるよー。二人で1500フロンになるよ」
うお、高ぇ。ザインのだいたい二倍か。さすが王都だな。でも貴族街手前にある宿だけあって、しっかり清掃が行き届いていて高級感がある。それでいてこのおばあちゃんの雰囲気が庶民感をかもしだしていて何か安心する。
「じゃあまずは一泊お願いします。あとお風呂も」
「はいよ。風呂はいつでも入ってくんな。タオルと石鹸も備え付けのものがあるからねぇ」
「あ、そうなんですね」
どうやら風呂は標準でついてるらしい。王都の物価が高いのはあるあるっぽい気がするが、いろいろセットで1500フロンだと、そこまで高いものではないのかもしれない。
「部屋は三〇六号だよ」
お金を払って鍵を受け取ると、俺たちはさっそく部屋へと向かった。
「はー、疲れたー」
部屋に入るなりさっそくベッドへと寝転がる莉緒。二日かけて飛ばして移動したし、俺もそれなりに疲れたかもしれない。
莉緒と同じベッドへと寝転がると、「ムフフ~」と言いながら彼女がすり寄ってきた。
「あー、このまま寝てしまいそうだ」
「私もー。明日に備えて今日は早く寝ましょうか」
「だな」
とはいえ風呂と夕飯は大事だ。このまま寝てしまうわけにはいかない。
「よし、風呂行くか」
「おー」
一息ついてベッドから起き上がると、備え付けのタオルと石鹸を持って風呂へ行く。
さすが王都のギルドでおススメされた宿だけはある。小ぎれいな内装に広々とした湯舟。水風呂があるというのがポイントが高かった。
さっぱりしたあとは夕飯だ。どうやらこの宿は80フランと120フランの夕飯を選べるらしい。もちろん高い方を選んだ。
この宿も以前の宿と同様で、一階に食堂があった。他にも客はちらほらいるが、貴族街に近い宿だけあってか静かなものだ。
「お、この肉うめー」
「うん。野菜もしゃきしゃきしてて美味しい」
「それにこれは……、マヨネーズ?」
ほのかに黄色い調味料をつけて野菜をかじる。
なんてこったい。まさにマヨネーズの味じゃねーか。テンプレだと異世界に来た日本人が広める料理の上位を占めるというのに。
まぁ料理がマズイよりは食文化が進んでる方がマシか。美味い飯が食えるのならば何も問題はない。
「でもまだ醤油や味噌は見たことないな」
「確かにそうかも」
さすがに発酵調味料は難易度が高いのだろうか。それにお米もまだ食べていない。いかん、思い出したら食べたくなってきた。
「おにぎりが食べたい」
「あはは……。私も……、お醤油塗ってじっくり焼いた焼きおにぎり食べたい」
「それ美味そう。俺もそれにしよう」
心の中に思い浮かべるおにぎりに焼き色を付けてみる。すごく香ばしい匂いが漂ってくる気がするが、気のせいでしかない。
高い料理を選んだはずが、微妙な顔になって料理を食べる俺たちであった。
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