第24話 テイムスキル
「そういえば常時出てる採取依頼ってあります?」
絡まれることなく冒険者になれたぞと感慨に耽っている間に、莉緒が現実的な依頼の話を受付嬢に尋ねていた。
「はい、Fランクですと薬草と毒消し草の採取が常時出ています。お持ちであれば買取いたしますので、向こうの買取カウンターまでお願いしますね」
「柊、行こっか」
莉緒に袖を引っ張られつつも、受付嬢に指示された買取カウンターへと向かう。薬草と毒消し草って持ってたっけ。魔の森に大量に生えてるのは知ってるけど、大量にあるからこそ普段は収集はしていなかった。キノコの方が効果も高かったしね。
「はいはい、話に挙がった買取カウンターはこっちだよ。売りたいものはこの台に置いとくれ」
カウンターの前には誰も並んでいない。莉緒は台の前に立つと、ローブの内側から出すふりをして、草の束を二つ台の上に置いた。
「はいはい、薬草と毒消し草だね。ちょっと数えるから待ってな」
ずんぐりとした横幅の広い、俺よりも背の低いオッサンが草を数えだす。
「はいはい、薬草が十六、毒消し草が二十二だね。端数は返すよ。合計で180フロンだ。大銅貨一枚と銅貨八枚だな。ほれ、受け取りな」
「ありがとうございます」
草をローブの内側にしまい込み、お金を受け取る莉緒。
ってかあれだけで180フロンか。あの宿は二人部屋で大銅貨八枚の800フロンだろ? 全然足りねぇな……。
「というか莉緒、いつの間に薬草とか集めてたんだ」
「んー、ちょくちょく集めてたよ? まだまだあるけど今は様子見かな」
周りに聞こえない声で囁き合う。確かに初日から目立つこともない。いざとなれば街の外で野営でもいいんだし。
「でも採取だとなかなかお金がたまらないわね。ランクを上げないと」
「だなぁ。FからEは依頼を十個達成しろ、だっけか」
「はいはい、常時依頼の薬草と毒消し草は五束ずつで依頼一つ達成扱いだ。というわけで、お嬢ちゃんは依頼を七つ達成したことになるな」
「……莉緒だけ?」
買取カウンターのオッサンの言葉に嫌な予感を覚えつつ聞いてみるが。
「はいはい、あんたらパーティー組んでねぇだろ? んだらソロでの達成扱いなんだな」
「ちょっ、マジで!」
「えっ、そうなの!?」
二人そろってエルフの金髪受付嬢を振り返ると、慌てた様子でこちらに駆け寄ってきた。
「も、申し訳ありません、こちらの説明不足でした。本来であれば報酬受け取り後はできないのですが、今パーティーを申請していただければ、シュウ様も依頼達成の処理をさせていただきます」
「あ、わざわざすみません」
「いえ、こちらの不手際ですので」
へこへこしていると、受付嬢もすぐさま笑顔になってパーティー申請の手続きを進めてくれる。
「ではパーティー名を決めてくださいね」
いきなり思いつかないぞ……。何かないかと問いかけるように莉緒へ視線をやるが、首を左右に振られてしまった。
「えーっと、……そう簡単にパーティー名とか浮かばないんだけど」
「ウォーターブック」
ぼそりと莉緒が呟くけど、それって俺の名前だよね。まんま英語にしただけの自分の名前つけるとか恥ずかしいのでやめていただきたいです。でも名前か……。「柚」って英語でなんて言うんだろう。わからん……。まだ柚月の月を入れるほうがいいか。
そういや召喚された俺たちは勇者とか呼ばれてたな。でもブレイブとかしっくりこないし……。あ、そうだ。
「それじゃ『月の雫』でお願いします」
「わかりました。『月の雫』ですね。ではこちらで登録します。ギルド証をお預かりしますね。……お二人は依頼を七つ達成ということになりますので、あと三つでEランクに昇格となります」
首から下げていたギルド証を受付嬢に渡すと、しばらくしてパーティー名が入ったものが返ってきた。
にしてもあと依頼三つでランクアップか。ちゃっちゃとランクアップして報酬のいい仕事をできるようにならないと、今の宿は維持するのも難しいな。
「とりあえずどんな依頼があるか見に行こうよ」
「そうだな」
莉緒に促されて依頼の貼ってあるボードへと行ってみる。
「Gランクが街中の雑用って感じだな。へぇ、Fランクにも街中の依頼があるんだ」
「街中依頼は力仕事関係がFとかEランクにありそうだな」
「うーん。今日中に終わらせられそうなやつは……、なさそうね」
他に変わった依頼は、風呂掃除とか、逃げたテイムされた魔物の捜索か。風呂掃除ってギルドに依頼がくるもんなのか。公衆風呂とかがあるのかな? もしあるならぜひ行ってみたいところだ。
そしてテイムされた魔物! つまりテイムスキルが存在するということじゃないですか! これは是非とも生やさなければ!
エサになる肉をやって餌付けすればテイムされてくれるのかな。てか街の周辺ってどんな魔物がいるんだろうか。
「柊?」
テイムについて考察していると、莉緒から疑問の声が上がる。えーっと何の話だったっけ。あーそうだなぁ、風呂掃除も気になるけど……。
「今日はやめとこうか。街の地理もよくわかってないから、このあとは街をぶらぶらするか」
「……デートだね!」
なんかジト目で見られてた気がしたけど、俺の言葉で目を輝かせる莉緒であった。
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