第18話 四か月後

 あれから師匠とは地球の科学を交えて、魔法の研究をすることが多くなった。その結果新たに生えたのは、雷魔法の他には氷魔法、重力魔法に磁力魔法だ。磁力については、生えたはいいがいまいちいい活用方法が思いつけていない。

 また既存の火属性や水属性魔法で天候もある程度操れることが発覚した。これもこの世界にはない科学の概念だろう。

 が、そんな些細なことはいいのだ。新しい属性を発見したことに意義がある。これからも新属性の開発に力を注いでいこうと思う。


「柊って最近、師匠に似てきたよね」


 決意を新たにしたところで、莉緒から聞き捨てならないツッコミが入る。


「いやいや、どのへんがだよ」


 あの変人の師匠と俺のどこが似てるんだ。まったくもって心外である。抗議の声を上げるが、莉緒の表情は呆れ顔になるばかりだ。


「属性魔法限定だけど、スキルマニアになってるよね……」


 最後にはジト目を向けられてしまうが、衝撃の言葉にそんなことはどうでもよくなっていた。


「な、なんだって……?」


 いやいや、新しいスキルのためには手段を択ばない師匠と俺が同じはずが。


「昨日は何時まで起きてたのよ?」


「えっ?」


 確か磁力魔法について、具体的な使い道がないか考察してたんだったか。開発したからには何かひとつでも活用方法は出したいところだったんだけど、これがなかなか……。

 敵が金属装備していたら、磁力で固定とかはできそうだけどね。重力と違って場ではなく金属に反応するから。


「ほら、今も何か考え込んでるじゃない」


 俺の思考に割り込むようにして、莉緒が斜め下から見上げてくる。


「いやぁ……、ハハハ……」


 生活リズムを乱してまでやることではないということはわかった。うん、ちょっと自重しようかな……。




「よし、今度はソロ狩りでもするか」


 師匠の家に厄介になること早四か月ほど。また師匠が何か思いついたようだ。

 いい加減家の周辺どころか、そこそこ奥のエリアも莉緒と二人でうろつけるようになっている。なので一人でも問題はないんだけども。


「そういえば一人で森をうろついたことなかったですね」


「そうだろう?」


 ふふんと胸を張る師匠。一人で狩りをすれば何か新しい発見もあるかもしれない。


「でもそれって、一人で狩りに行くだけでいつもと変わらないわよね?」


 莉緒はそれほど目新しい試みとは思わなかったようだ。


「くくく、そこでだ。狩りの時間を一時間ほどに制限して、誰が強い魔物を狩ってこれるか競争しようと思う。速さや正確性を求められるからこそ、新たに生えるスキルがあるかもしれない!」


 力強く宣言する師匠には同意せざるを得ない。やる気を見せる俺に、莉緒がしょうがないわねとため息をつく。


「制限時間がつくなら、強すぎる師匠が有利ってほどでもないか……」


「その通りだ。このあたりの魔物は雑魚ばかりだからな。強い魔物を求めて奥へ行ってもいいが、一時間かけて行ける場所もたかが知れている」


「それならまぁ……」


 なんとか納得した様子の莉緒だけど、だいたいにおいて師匠の思いつきが却下されたことはほとんどないのだ。反対するだけ無駄というやつである。


「よし、では解散!」


 師匠の掛け声とともに駆け出す。

 魔力を纏って身体強化を行うと、家を囲う壁へ向かって走り出す。踏切と同時に重力魔法を発動し、体重を軽くするとそのまま壁を飛び越える。

 さすがに新規属性魔法の使い方は師匠には負けない。風魔法と組み合わせて空を飛ぶと、そのまま森の奥深く東へとまっすぐ向かう。


 師匠は地面を走っているが、さすが師匠だけあって早い。

 莉緒はスタートダッシュが遅かったらしく俺の後ろを飛んでいるが、徐々に距離を詰められている。

 有り余る魔力に物を言わせてスピードを出しているらしい。


 やがて二人とも視界から消え、ここからは完全にソロでの行程となる。


「さてと、初心を思い出していこうかな」


 空からは木々が邪魔で獲物が見えない。気配察知は使っているのでだいたい何がいるのかはわかるんだけども。

 高度を落として地面へと着地する。初めて魔の森に来たときは何に襲われるかわからず、常に恐怖と戦っていた。それを思えばすごく成長したもんだと思う。


「お、体力茸見っけ」


 木陰の苔の隙間から生えていた、赤と黒のまだら模様の茸を採取する。

 いやまさかこれが食える茸とは思わなかったよホント。そのくせデスメグの実を食って死にかけるとか。


「んんー? この先に何かいるな……」


 気配と魔力を遮断し、忍び足で音を立てないようにして近づいていく。この気配はアイツかな……。目視できるところまで近づくと、遠目にダチョウのような見た目の鳥が現れた。額や首筋が岩のように固い皮で覆われているロックバードだ。

 空は飛べないけど、鋭いくちばし攻撃とキック力は侮れない。


 周囲には何もいないことを確認すると、一気に距離を詰めて首を落とす。岩のように固い皮膚なんてなかったかのようだ。

 このあとも何匹か魔物を仕留め、異空間ボックスへと仕舞っていく。


「やべっ、そろそろ時間か」


 家に時計はないが、この世界には時計はある。一時間というのも体感時間に過ぎないけど、それなりの物差しにはなっている。

 急いで家へと戻るがどうやらまだ誰も帰ってきていなかったらしい。壁を越えて庭に降り立つも、人の気配はなかった。


「血抜きしながら待つかな」


 えーっと、血抜き用の台を土魔法で作って、異空間ボックスから獲物を出す。重力魔法で血抜きを加速させながら待つことにした。

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