格闘技にも似た過酷なショーに身を投じる『スワイパー』、そのトップランカー集団である『スワイパー・セヴン』のひとりであるところの主人公が、マネージャーの女性との最後の日々を過ごす物語。
すごいものを見ました。すごかったことは間違いないのですが、でも読み終えてなお脳がその内容を受け止め切れていません。なんですかこれは……どうしてこんなものが書ける……。
どうしても設定の部分に目が行ってしまうというか、どう考えてもいけないお粉とかを嗜みながら書いたとしか思えない設定がそこかしこに散乱しているのですが、その実このお話の核はただどこまでもまっすぐな青春物語というか、ゴリッゴリのディストピア小説です。
それも肝心のディストピア要素はほぼ単語レベルでしか触れられていないのに、その世界に生きる人間のどうしようもない苦悩と葛藤を、擬態という行為に仮託しながら見事に切り出してみせる、その手際の鮮やかさと嘘のなさ、物語から絶対に逃げようとしない姿勢のようなものが、もう凄まじい勢いと威力でこちらの顔面に飛び込んできました。すごすぎる……終盤なんかはもう肌が粟立ちました。なんなのだこれは……。
凄まじいです。なにしろ必要なものほど説明がなくて、なのにそれでも(だからこそ)わかるんです。作中三箇所にただ登場するだけの『廃棄物』という単語と、あとはマネージャーの彼女の選択と決断だけで、主人公が最後何に慟哭しているのかわかる。この「わかる」ことの気持ちよさ、物語のエッセンスをそのまま原液で注入されたみたいな凶悪さが、もう本当になんというか「殺す気か」という感じでした。死ぬかと思いました。いやもう、本当に面白かったです。すごいよ!
何を食ったらこういう話を書けるようになるのか? それを解き明かして禁止薬物リストに載せるべきだとまずは提言したい。
二分された世界、そしてそこからさえも阻害されたはぐれ者。なるほど、一見して未来SFが好んで採用しそうなモチーフだ。スワイパーとモニターの役割も少なくとも作中で描写されているものを見る限りは明確で、こんなものに第四位も超新星もあってたまるかという疑問が無限にわいてくるのはさておき、本来はこのいずれの陣営にも属していないはずの主人公の葛藤が、読者には全く意味不明なまま、爪の手入れや試合後の手洗いの緻密な描写から少なくとも深刻なものであることが窺えるなど、完全に筆力頼みで読者に異物を飲み込ませようとしている。
毛むくじゃらな男に対する言葉責めとか、やりとりの内容自体は下世話な映像作品に出てきそうなレベルなのに、妙なスパイスを仕込んでオシャンティーな雰囲気にしてるのもやはり、読者に異物を飲み込ませようという魂胆が働いているのではないかと思う。