ジンジャー
その村では、蝶が主食だった。美しい白い蝶がひらひらと舞うのをぱっと捕まえて、人々が無造作に口に放り込むのを、何度も目にした。
「それ、美味しいんですか」
たまたまレストランの屋外席で相席となった男がワインの合間に蝶を口にしたのを見て、つい尋ねてしまう。男は快活に答えた。
「ああ、もちろん。甘い雪みたいなもんでね、口の中でしゅわっと溶けて、気分転換にもなるよ」
「口の中でしゅわっと……」
想像ができず眉をしかめる私に、君も食べてみたら、と男は勧める。これだけの人が食べているのだから害はないだろう、と思い、目の前にやって来た一羽を捕らえ、恐る恐る口に入れてみる。
蝶の形は舌の上で一瞬で崩れ、爽やかな甘みと共にほろほろと溶けた。これまで食べた何とも違う食感に、すぐに夢中になった。次に飛んできた蝶も口に放り込みながら、また飛んでこないだろうかと、辺りを探してしまう自分がいた。
「食べたね」
と、男が笑う。
「この蝶は、この村にしか生息していないんだ。だから、食べたいなら、この村に住むしかないよ」
よく見ると血走った彼の目は、私同様に、白い蝶の姿を探して休まず動いている。
私はもつれる指で会計を済まし、外へ出た。夜の間も飛び交う蝶を掴みながら、今の仕事を辞める算段を立て始めた。
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