タイツリソウ(誕生花ss)
大切に飼っていた愛犬が虹の向こうに去ってしまい、胸にぽっかりと空いた穴を埋めるために、生前に採取していた遺伝子から、愛犬のクローンを作ってもらった。ペットクローンは最近流行しており、ペットロスに悩む人々からの支持を集め始めている。
クローン犬は、オリジナルの愛犬とそっくり同じ見た目だった。小さな体で私の足に甘える仕草までも同じで、彼が戻って来てくれたと思った。
けれどそれは仔犬の時までで、成長し始めてからは、オリジナルとの相違点が目立ち始めた。おとなしく、騒ぐことの少なかったオリジナルに比べ、クローンはよくはしゃぎ、よく吠えた。オリジナルは散歩の途中でものんびりと立ち止まって暫く動かないなんてことがあったけれども、クローンはリードをぐいぐい引っ張って、好奇心の赴くままに走りたがる。けれど、オリジナルとよく似ていたのは、私の言いつけを、何があっても絶対に守るところだった。
だから、クローンが死んだとき私は、オリジナルが死んだときの悲しみとはまた違う悲しみに打ちひしがれた。またクローンを作れますよ、と業者に言われたけれど、首を振った。
クローンはたしかにオリジナルのクローンだったけれども、彼はやはり彼として、オリジナルだったのだ。
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