フレンチラベンダー

 その子と出逢ったのは、暗い宇宙空間で、退屈な観測作業をしているときだった。より正確に言うなら、私が出逢ったのは、その子の『声』だった。

 近くにステーションなんてない辺境だった。そこで私の小さな観測船の受信機が、突然、女の子の声を拾ったのだ。

「ハローハロー、私の声が聞こえますか」

 私は慌ててその回線を固定した。人間の声を聴いたのが久しぶりだったからというのもあるが、それが遭難者の救難信号かもしれないからだ。

 そしてそれは、確かに救難信号だった。雑音まじりにその声は、この宙域近辺を漂っていて、もう何日も助けを待っていると話した。彼女が話す星の配置からだいたいの位置の見当をつけ、私は航宙図にマークした。その間にも、雑音まじりに、声は話を続けていた。

 時計が、二日の経過を報せた。

 この二日の間、真剣に船を操縦しながら、私は、声の主について多くのことを知った。名前はラベンダー、出身は地球。髪の毛は紫、今はお気に入りのワンピースを着ている。つい先日ハタチになったから自分用の船を買ってもらい、なぜだかこんな辺境に辿り着いてしまった。地球には船を買ってくれた彼氏がいて、ちょっとオタクっぽい見た目だけど、エクボが可愛い。

 スピーカーから流れる彼女の声を聴いているうちに、私はいつのまにか、彼女のことを大好きになっていた。茶目っ気のある、元気な女の子の姿が目に浮かんだ。なんだか気が合いそうな気がして、最初はただ人命救助が目的だったのが、いつのまにか、彼女と友達になりたいと思うようになっていた。

 何度かこちらからの発信も試みたけれど上手くいかず、結局、紫色の船体を見つける方が早かった。

 船の中には、ラベンダー色の髪の女の子の亡骸があった。非常食が保たなかったのだ。メッセージは彼女が亡くなる数日前までの分が、リピートで流れ続けていたのだった。

 私が呆然と立ち尽くす前で、彼女の最後の声が私の船内から響いてきた。

「誰か、お願い。私の声に応えて」

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