アゲラタム

 おつかれ! 今日も雨だったよね。すっごい寒いのに、体育は外でずっと走らされて、もう最悪。ねえ、覚えてる? 体育の先生さ、いつも短パン履いてたじゃん。やっぱ今日も短パンなわけ。変わってるよね。そっちの学校はどう? 返信待ってる。


【このメッセージは送信できませんでした】


 最近暑い日が続くよね、そっちはどう? 私はそろそろ夏休みなんだけど、その前にテストと学祭あるんだ〜。正直、どっちもだるい。君がいてくれたら、絶対楽しめるんだけどな。あーあ、最近学校、つまんないよ。返信待ってるからね!


【このメッセージは送信できませんでした】


 テストの結果はもう散々。模試も同じく惨敗。大学とか、行ったって面白くもなさそうだし、私やっぱり就職にしようかなあ。ねえ、君はどうするの? そっちには、受験とかあるの? ねえ、


 画面に踊らせていた指が止まる。どうせ、どこにも届く筈のないメッセージだ。返事だって来る筈がない。君はもう、電波なんてない世界に行ってしまった。それでも、もしかしたら、と思って送信してしまったメッセージが、何通もボックスに溜まっている。

 君に、一通でも届いたら。返事が来たら。

 そんなことある訳ないのは、自分が一番分かっている。再び指を動かす。数行削除して、文字を打ち始める。


 大学、君だったら行ったほうが良いって言うよね。私もそれは分かってるんだ。やっぱり、もうちょっと勉強頑張ってみる。


 返信、と打ちかけたのはやめた。送信ボタンも押さない。これからは、下書きが溜まっていくことになるだろう。

 けれど、きっといつか、それすらしなくなる。そのときが、本当のお別れになる。

 スマホの電源を落とし、私は机に向かった。

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