キングサリ

 呪いの魔女は、美しい人だった。

 依頼を受けて人を呪い、報酬を得る、そんな恐ろしいことを生業にしているようには、まったく見えない。線が細く儚げで、綺麗な金髪を柔らかく肩に垂らした彼女は、物憂げな青い瞳で私を見た。

「誰を、どのように呪いたいのですか」

 囁くような、吐息のような、殆ど空気を震わせない声が、まるで似合わない台詞を紡いだ。玄関に突っ立ったまま、私は彼女を見つめ過ぎていることに気がつき、慌てて目を逸らす。

 震える声で、呪って欲しい相手と方法を伝えると、呪いの魔女は薄く微笑んだ。

「承知しました。早晩、実行いたしましょう。お代はあなたの望みが成就してからいただきます」

 話は済んだとばかりに背中を向けてしまった相手に、私は思わず声をかけていた。

「あの……あなたはどうして、こんなお仕事を」

 村で唯一の魔女であり、治療より呪いに特化した彼女は、誰からも畏れられ、距離を置かれている。どんなに恐ろしい人かと思っていたけれど、予想とは真逆の優しげな美しさに、つい疑問が口をついた。

 彼女は眉を上げて目を瞠り、私を凝視した。

「なぜ、そんなことを聞くのです」

「失礼かもしれませんが……寂しそうだったので……」

 目の前の人を、世捨て人のようには思えなかった。半ば閉じられたような瞳は、しかし人を拒絶している風ではなかった。

 彼女は暫し黙り込み、やがて唇を開いた。

「私が、人を呪う力を持って生まれたからです。この体に巡る血にはその力が溶け込んでおり、他人には毒なのです。ですから、こうして魔女として、人から離れて生きているのです」

 家を辞すとき、彼女はもう私を見なかった。誰かを呪うときにしか必要とされない彼女の、その根本の悲しさが、私の胸に重く沈むようだった。

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