ビジョナデシコ
この間までは、彼女が世界一可愛い女の子だった。けれど、今は違う。
まだ幼い彼女は、幼いなりに、自分が両親にとって一番でなくなったことを敏感に悟った。母のお腹が大きくなってきたころは、まだ良かった。母は彼女を呼び寄せて、お腹の中で妹がたてる音を聴かせてくれた。あなたはお姉ちゃんになるの、という言葉は、なんだかとても明るい光を感じさせるものだった。けれど。
妹が生まれ、父はますます帰宅が遅くなり、母は四六時中、小さな赤ん坊の世話に追われるようになった。彼女にはひとりで遊ぶためのパズルや絵本が与えられ、退屈で妹に近寄ろうものなら、何をするのと怒られた。何をするも何も、ただ顔を見たかっただけだったのに。
父も母も、かまってくれなくなった。「お姉ちゃん」なんて楽しくない。
母が用事で台所へ立ったとき、彼女はそっとベビーベッドに近寄った。自分から世界を奪った相手に向けて手を上げたとき、寝ていた赤ん坊の目がパチリと開いた。大きく瑞々しい黒目が彼女を捉え、顔中で笑った。呆気にとられる彼女の手は、小さな指にしっかりと捕まえられてしまった。
それから、彼女は母に頼んで、妹に絵本を読み聞かせるようになった。妹が笑うと嬉しくなった。「お姉ちゃん」もそんなに悪くない、なんて思った。
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