ゲッケイジュ
月の都には、大理石のように白く、美しい木が何本も立っている。丈の高い、曲がることなく天を突くその木には、枝がたったの二本だけ、幹の中途から枝垂れるように伸びている。芳しい香りの樹液は甘美で、月の人々が好んで採取するという。
地上で人の愛を拒んだ人間は、死後、その木になる。
白く滑らかな木肌は相手の心の一切を寄せ付けなかった冷酷さの表れであり、曲がらずに成長するのは、決して何者にも靡かなかったことの証だ。幹の中途から伸びた枝では、もう誰のことも抱きしめられない。甘美な樹液は彼らの後悔、傲り高ぶった過去の己への、悔恨の涙だ。
月の人々は、それら白い木々を愛で、大切に育てる。樹液を食べ、香りを楽しむ。そして最後には、切り倒してしまう。
白い木は無言で倒れ、同時に、地上の愛がひとつ報われる。そうして許しを与えられた木は、大きく息を吐く。かつて拒んだ愛のもとへ、駆けて行く。
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