ホトケノザ
大人たちから、絶対に近づいてはならないと言われていた場所があった。村外れの墓地の裏手にある、小高い山の、向こう斜面だ。閉鎖的で、滅多に土地の外から人も来ない田舎には、よくある不文律だ。特に興味もなかったし、ぼくは気にもしていなかった。
けれど、中学校の遊び仲間は興味津々だった。
「絶対エロ本とか捨てられてるって」
「ばか。それよりもっと良いもんが隠されてるんだよ。村に伝わる宝とかさあ」
そんな話の流れで、学校が終わったあと、三人で見にいくということになった。本音を言えば家に帰ってゲームでもしていたかったけれど、付き合いは大事だ。自転車を止めて、木の間へ分け入っていく。
クラスの女子の誰が可愛い、とかどうでも良い話をしながら山の天辺近くにたどり着いたとき、周りの空気がガラリと変わった気がした。さすがに他の二人も口をつぐみ、ぼくたちは肌を刺す冷気に身震いした。
「なあ、やっぱ」
帰らねえ、という声が喉の奥で止まった。なだらかに広がる斜面を埋め尽くす、鮮やかな紫色の花々に目を奪われる。まるで現実感のない、圧倒されるような美しさ。
「うわ……すっげ」
メガネが言いながら、その花の中へ足を踏み出した。途端に、赤い飛沫が上がる。何が起きたのか分からずに戸惑うぼくの耳に、膝から下をなくした彼の絶叫が届く。
「や、やば……」
もうひとりがじりじりと後退りするが、叫びながらがむしゃらに腕を振り回すメガネに服の裾を掴まれ、バランスを崩して花の中へ転げ落ちた。二人してゴロゴロと花の中を回転している様は、その度に悲鳴と赤が上がらなければ、まるで楽しんでいるようにも見えただろう。
呆然とするぼくの目は、ようやくソレを捉えた。紫の花に見えていたソレは、小指の先程の、小さな、仏像のような、大量の何かだった。鋭い牙を生やしたソレは、二人の身体に群がり、いとも容易く刻み削っているのだ。
二人の悲鳴が弱くなっていくのを遠く感じながら、ぼくは、やっぱり家でゲームしてりゃ良かった、と思った。
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