クロッカス(黄)
「お姉ちゃんを信じて」
姉は、いつもそう言って微笑んでくれた。ぼくがお気に入りのぬいぐるみを壊してしまったときも、友だちとけんかして泣きながら帰ったときも、受験勉強が思うように進まずいらいらしたときも、就職が決まらなくて落ち込んでいたときも。姉は、お気に入りのぬいぐるみを綺麗に直してくれ、友だちと仲直りするための言葉を一緒に考えてくれ、勉強を教えてくれ、遅くまで愚痴に付き合ってくれた。今のぼくがあるのは、姉のお陰だ。だから、いつかぼくも、姉のためになることをするんだ。
そう、思っていた。
「お姉ちゃんを信じて」
非常警報が鳴り響き、人々が逃げ惑う中、ぼくを中に押し込めて、姉は個人用シェルターの扉の前で言う。
「お姉ちゃ」
「大丈夫だから。ね」
いつもと同じ微笑みを残して、姉は扉を閉めてしまう。直後、狭い空間が大きく揺れ、何かがぶつかったのだと分かった。
ぼくは耳を塞いで蹲り、ここを出たら姉にしてやりたいことを考え始めた。
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