サクラソウ

 小さい頃からいつも一緒に遊んでいた川原で、いつものようにしょうもない話をしていたとき、サクラはふと空を仰いで呟いた。

「あーあ、おれは機械になんてなりたくないなあ」

 ぼくと同じだけ外で運動している筈なのに、透き通るように白い彼の肌から、目を逸らす。サクラは人間じゃない。人間によく似た、けれどももっと弱くて儚い動物だ。彼らはもともとの短い寿命を、現代の科学技術によって人間と同程度まで引き上げた……身体を機械に置き換えてしまうことによって。

「二十歳になったら手術を受けるんだっけ?」

「そ。しかも、機械の身体になる前に、子作りしなきゃなんないんだぜ。青春を謳歌してる暇もねえ」

「……そりゃ大変だな」

 機械の身体なんてカッコいい、と言い合っていた日もあったな、と思い出しつつ、ぼくはサクラに倣って空を見上げる。

「サクラ、前から言ってるけどさ。身体が変わっても、お前は変わらないだろ」

「変わるかもしれないだろ……」

 機械化によって、彼らの種族の個別のアイデンティティが失われたという話は聞いたことがない。けれども、そんなことは関係なく、サクラが不安になるのも、よく分かった。ぼくたちの身体は、ぼくたちの思考や感情、経験を、それこそ一身に背負っているのだ。

「なあ、……」

 サクラが、何か言いかけて、やめた。不思議に思って見ると、何か思い詰めたような、真剣な顔が、そこにはあった。

「サクラ?」

「……なんでもない」

 それから暫く黙っていたが、サクラはまた口を開いた。次は、いつもと同じ口調だった。

「おれが変わっても、変わらなくても、友だちでいてくれるよな」

「あったりまえだろ。昔から、そう言ってるじゃん」

 そう答えて肩を叩くと、サクラはにっと笑った。強気なのに消えてしまいそうな、名前の通りの笑顔だった。

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