ピンクッション

 もうずっと、針を飲み続けている。

 嘘ついたら針千本飲ます、という童歌にもある通り、死んだ後、生きている間についた嘘の数だけ、人は針を飲まなくてはならない。

 私の目の前には、短いのから長いのまで、多種多様な針がずらりと並んでいる。これら全て、私がついた嘘なのだ。さっき飲んだ長針が喉の奥の方に溜まっているのを感じ、次は短いまち針を選んだ。緑色の花飾りが付いた、可愛らしいまち針である。

 これは、保育園で先生についた嘘だ。

 錆の付いていない、金色の輝きを帯びたそれを摘んで、顔を上に向ける。なるべく喉を大きく開き、そこへパッと落とす。入って行った。まったく驚くほどにすんなりと、針は私の喉を通過して行った。幼い日に無邪気に放った言葉と、その時の先生の驚いた顔が、針とともに体内に蘇る。

 嘘は苦い。それに悪意があろうがなかろうが、嘘は全て針であり、それを飲み込む時の苦さといったらない。もう私の腹には千本ではきかないほどの針が溜まっているけれど、その苦味には到底、慣れることができない。

 そして当然ながら、腹に溜まった針は痛みを生む。元の形を思い出せないほどぶよぶよと醜く膨らんだ私の腹部は、数多の針によって、ウニのようにとげとげしく突っ張っている。それは腹の皮膚を内側から刺し続け、また同じように、内部で内臓を刺し続ける。絶えず、腹の全てが痛い。けれど、針を飲み続けなくてはならない。私は、私の放った針を、回収しなくてはならないのだ。

 次の針に、震える手を伸ばす。

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