オンシジューム

 高校の部活動の後で村長に呼ばれて行った先は、村の神社だった。てっきり村長宅で力仕事の手伝いでもやらされるんだろうと思っていたのだけど、どうやら違う。通された板の間には、村長と神主、数人の巫女さんが座っていた。

「おお、スズメ君。よく来てくれた。頼みがあってな」

「はあ、まあ、そうでしょうけど……でも、神社のお役に立てるようなことなんて……」

 それとも、神社の改修工事でも手伝わされるのかな。そんなことを思っていたので、続く村長の言葉には度肝を抜かれた。

「神楽を舞ってくれんか」

「はあ? ……いや、ここの神楽は巫女さんの役目でしょう。男の、しかも神社に無関係のおれが、どうして」

 困り顔の村長に代わり、神主……よりも早く、控えていた巫女さんの一人が口を開いた。

「申し訳ありませんが……神様の、たってのご希望なのです。スズメさんに舞って欲しいと」

 どうやら、この神社で祀られている神様が数百年に一度の代替わりを行うらしく、その際の奉納演舞に、おれを指名したのだそうだ。訳が分からない。そもそも神様なんて、本当にいるのか?

 しかし真剣な面持ちの大人たちを茶化すこともできず、訳が分からないまま、引き受けることになってしまった。持って生まれた身体能力と部活動で培った勘で、どうにか形だけは舞らしく仕上げ、奉納演舞の当日となった。

 祭りでの演舞ではないので観客はいないが、神主と巫女さんたちが雅楽を演奏してくれる。それに合わせて、教わった通りの舞を始めた。静かに、ゆったりとした動きを心がけながら舞っているうちに、自分の足音にぴったり重なって、別の足音が聞こえてきた。軽いステップ……小さな子どもだ。おれと共に踊る見えない子どもは、舞が終わると同時に、風のようにいなくなった。

「今の……」

 呆然とするおれに、巫女さんたちが嬉しそうに拍手する。

「神様、とても喜んでらっしゃいました」

「え。やっぱり、今の神様なの」

 凄い体験をしてしまった。

 しかし、次の言葉に、おれは更に呆然とする羽目になった。

「ええ。スズメさんは神様の好みどストライクだったそうなので」

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